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▼26話 ページ29

微かに寝息を立てるAをそっと抱き上げ、辺りをぐるりと見回して最後にドアが開いていないのを確認してからハンググライダーを広げる。
もとから家に送るつもりだったけれど、わざわざ眠らせたのはもし初対面の男に住所を知られていたら流石の彼女も不審がるだろうと踏んでのことだ。


「__」


風向きは上々。去っていくパトカーのランプを遠目に見送り、軽く助走をつけて屋上から飛び降りた。
ふわりと浮遊感に包まれる。眠る彼女に視線を流すと安堵からか口元が緩んだのはここだけの秘密。
薄紅の差した柔らかそうな頬と、閉じられた瞼を縁どる緩いカーブを描いた長いまつ毛。普段は何気なく眺めていた繊細な部分にドキッとする。
そんな俺の隠恋慕にも気付かないんだろうな。自分の容姿には驚くほど無頓着なオメーのことだから。


「…夜の宝石、ねぇ」


夜の宝石。予告の品、アメジストの持つ異名。
彼女の瞳の色と同じ、透き通った紫紺の宝石。
その名前故に月の下でこそ美しく輝く__と、情緒に溢れた甘美な御伽噺(おとぎばなし)が語られるという。

月光が怪盗と少女を淡く照らす。光を散りばめた夜空には身体を寄せて飛ぶ白い鳥が二羽。
眼下に広がる夜景を一瞥、まあコイツには敵わねーけど、と怪盗は再び腕の中の少女に視線を落とした。


「__予告通り」


さらさらと風に撫でられる少女の黒髪にそっと指を通し、不敵に口元を歪める。
身体を傾けると下降するハンググライダー。とある洋館のベランダに音もなく降り立った怪盗はその大きな翼をたたみ、難なく窓の鍵を開けて少女をソファに横たえる。
風邪でも引かれたら困る。綺麗に畳まれたブランケットを一枚手にとり、ふわりと彼女の身体に掛けた。
いずれ目が覚めるだろう。ふと花瓶が目に留まった。白い薔薇が生けてある。隣にはどこか見覚えのあるドライフラワーが添えてあった。
ふ、と微笑んだ怪盗は指を鳴らす。リボンをかけた白い薔薇が一輪、花瓶の水を揺らした。

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Silvia(プロフ) - 怜さん» わ!!!2年前にもコメントしてくださった方ですよね…!?本当に嬉しいです、見てくださってありがとうございます〜!!ゆっくりにはなってしまいますが、更新はし続けるつもりなのでこれからもお付き合いいただけると幸いです! (5月14日 8時) (レス) id: b3d15ce9d9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 通知きて叫びました、、更新ありがとうございます!!!お忙しいかと思いますがぜひこれからもお話書いていただけたら嬉しいです( ; ; )応援しています!! (2023年5月6日 1時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Silvia(プロフ) - 怜さん» うわああぁありがとうございます!!!好きって言っていただけて嬉しいです!がんばります:) (2021年5月19日 15時) (レス) id: a80726cefa (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - この作品とっても好きです!!これからも頑張ってください! (2021年5月19日 15時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Frisk(プロフ) - シルビア-Silvia-さん» 振り込むって時点で金なんだよなぁ…絶対破壊光線期待してます。 (2021年1月16日 12時) (レス) id: 83e488319f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Silvia | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年3月22日 10時

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