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▼19話 ページ22

__0センチ、とはいかなかった。


震えるのは俺の携帯。身体を起こすとAも何かを察したのか、目を開けて明かりの眩しさにくぐもった声を洩らす。
画面に表示されたのは知らない番号だった。


「…はい」


誰だよ、こんな時間に。
今すぐにでも舌打ちしたい気分を抑えながら通話ボタンをタップすると「あ、悪い!」と電話の向こうから慌てたような声が聞こえた。
いつも一緒につるんでいるクラスメイトの一人だ。
そういえば番号を交換したっきり登録するのを忘れていたような。


「どした?」
「別の奴に電話かけようとしたら間違えて快斗にかけちゃって。気付いてからすぐに切ろうと思ったんだけどその前に出ちゃったからさ」
「…オメー、マジで覚えてろよ」


苦笑を洩らす。どうやら間違い電話だったらしい。
「ひっ」と怯えた声が聞こえた気がしたが敢えて無視する。「じゃあな」と強引に通話を切り、携帯をポケットにしまった。


「誰?」
「クラスのヤツ。間違い電話だってよ」
「そっか…」


残念そうに、でも少しだけほっとしたように。
ふうっと息を吐き出して、Aが曖昧に笑った。
甘い雰囲気は完全にぶち壊し。あと少しで奪えたのに、なんて思いつつもまだ伝える猶予が残されていることに安堵を覚える。


「…わりぃ」
「んーん、気にしないで。快斗が悪いわけじゃないんだし」
「ん…」


互いに触れ合うことは慣れっこなのに、こういうことをしようとすると決まって邪魔が入る。
気持ちを伝えようとすればその手を振り払われることが急に怖くなって躊躇ってしまい、俺らしくないよな、なんて思いながらため息を吐く日々の連続で。


「…いったいいつ言えんだか」
「何を?」
「何でもねーよ」
「え〜気になるんだけど」
「ンな顔しても教えねぇからな!」
「…どうしても?」
「どうしても」
「…わかった」


しゅんとしたAがこくりと頷き、一度身体を起こしてからソファに座り直す。
それから首を僅かに傾けて俺の方を見て。


「じゃあ、言う決心がついたらでいいよ」
「……え」
「ずっと待ってるから、快斗のこと」


そう言ってふわりと微笑んだ。


「オメー本当は気付いてるんじゃ…」
「んん?何が?」
「…タチわりぃ」


そんなやり取りを置き去りに夜の闇は深くなっていく。
結局、帰宅してから色々と思案していた俺が布団に入ったのは新聞配達のバイクが走りはじめた頃だった。

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Silvia(プロフ) - 怜さん» わ!!!2年前にもコメントしてくださった方ですよね…!?本当に嬉しいです、見てくださってありがとうございます〜!!ゆっくりにはなってしまいますが、更新はし続けるつもりなのでこれからもお付き合いいただけると幸いです! (5月14日 8時) (レス) id: b3d15ce9d9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 通知きて叫びました、、更新ありがとうございます!!!お忙しいかと思いますがぜひこれからもお話書いていただけたら嬉しいです( ; ; )応援しています!! (2023年5月6日 1時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Silvia(プロフ) - 怜さん» うわああぁありがとうございます!!!好きって言っていただけて嬉しいです!がんばります:) (2021年5月19日 15時) (レス) id: a80726cefa (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - この作品とっても好きです!!これからも頑張ってください! (2021年5月19日 15時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Frisk(プロフ) - シルビア-Silvia-さん» 振り込むって時点で金なんだよなぁ…絶対破壊光線期待してます。 (2021年1月16日 12時) (レス) id: 83e488319f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Silvia | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年3月22日 10時

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