笑顔を盾に本音を隠す【名探偵コナン】

第005夜 ページ5

フェンスの上に悠然と立っている怪盗キッドに目を奪われる。
目を逸らすことができない。とても惹きつけられる。

私は無意識に立ち上がっていた。


「怪盗キッド…」


私が小さく呟く。その小さな声に怪盗キッドは気づきこちらに顔を向けた。
トン…と静かにフェンスから降りてこちらに近づいて来る。


「こんばんは、お嬢さん。
今夜は冷えます。こんな所にいると風邪を引いてしまいますよ？」


そんな言葉と共に目の前にいる怪盗キッドは片膝を地面につけて私の右手を取り、手の甲にキスを落とした。
私の手の甲にキスを落とした怪盗キッドは一瞬表情を崩すもお得意のポーカーフェイスで私の顔を覗き込む。


「お嬢さんはいつからここに？」

「２時間ほど前から、かな。」


ヘラッと笑みを浮かべる。
すると私の手を彼の手で優しく包み込んでくれた。
怪盗キッドは手袋をしている為温もりを感じることは出来なかったが、それでも温めてくれようとしているのがわかった。


「ところでお嬢さん。
お嬢さんはお家へ帰られていないのですか？」

「…え？ あぁ、まぁ。」


彼に言う必要なんてない。
だけど逆に言ってしまえば、彼なら言っても良いのかもしれない。

知り合いでも、なんでもないのだから。
だから私は“つい”言ってしまった。


「……家出を、したの。」


怪盗キッドの手の中から自分の手を引っこ抜き、フェンスの柵に手を置いて廃墟の屋上から見える夜景を見つめながら呟くように言葉を続ける。


「ただの兄妹喧嘩だけどね。
でも、みんなが思っている喧嘩とは訳が違う。…命賭けの喧嘩なんだ。だから…」


チラリ、怪盗キッドの方を向く。
薄く笑みを浮かべて「友達を作るのが怖いんです」と告げた。
命賭けの兄妹喧嘩に、他人を巻き込むことなどしたくない。

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