笑顔を盾に本音を隠す【名探偵コナン】

第022夜 ページ22

私は６階から自分の意思で落ちた。
誰かに殺されるのであれば、自分からの方が迷惑を掛けずに済むと思って。

上からコナンくんが叫んでいる。
私の名前を呼んでくれている。

死ぬ直前に走馬灯が見えると聞いた。
走馬灯……死に際に見る“一生の記憶の現象”と言われている。
でも、私には見えなかった。


「……さよなら…」


呟き目を閉じて死を待った。
もう手遅れだとわかっているから、死だけを待った。


でも私には聞こえた。
「A！！！！」と必死な声が。


その声が聞こえた直後腕を引かれた。
腕を引かれた直後に温もりを感じた。
誰かの心臓の音が耳元で聞こえた。とても鼓動が早かった。
でもその“誰か”の顔を見る事ができなかった。
その“誰か”の胸に顔が埋まっていたから。後頭部を抑えられていたから。

今何が起きているかはわからない。
だけど１つ言えるのは『私は助かった』ということ。
白い服。白から青にグラデーションになっていて、黒のパーカーを着た人物に、私は助けられた。


「く…ろば、…くっ」


無事地面に着地をしたようでストンッという着地音が聞こえた。
私は彼の胸の中で、彼の名前を呼ぶ。

でも彼は私を離してくれない。
彼は両手で私を抱きしめる。強く、大事な物を抱えている様に優しく。


「頼むから生きることを諦めないでくれ……」


彼の声は凄く震えていた。体も小さく震えていた。
私は、とんでもないことをしたんだとすぐ理解できた。
遠くの方からコナンくんが走って近づいてくるのを彼の肩越しから見えて、更に辛くなった。


「……ごめんなさい、黒羽くん。…助けてくれて、ありがとう…ございます…っ」


鼻の奥がツンとした。私の目から涙が出そうになったのを堪えて、彼の背中に手を回して私も抱き返した。
「ありがとう」と「ごめんなさい」という気持ちを込めて。



後に私はコナンくんから話を聞くと、黒服の人たちはすぐ警察に捕まったという。
黒服たちは事件を起こした動機などを黙秘しているそうで、解決までに時間が掛かるだろうっと言っていた。

　

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