姿が見えない彼女 Ⅱ【kid】 (ページ11)

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『僕も、名前で呼んでもいいですか。』

少しの間、僕たちに沈黙が訪れる

カラオケのモニターから誰もが知ってるアーティストの声だけが響く

気まづ…

あれ…距離の詰め方おかしかったかな。

そしたら急にあははっと声を出して笑う彼女

「もしかして、それずっと気にしてました？」

やっぱりなぁ〜といってお酒を飲みながら笑う彼女

『え、すみません嫌だったら全然』

「ううん、そうじゃなくてね、今日カラオケきてから目合う度にちょっと思い詰めた顔してたから何か相談あるのかなって気になってて」

まじか僕……顔に出すぎだろ……

「好きなように呼んでください、苗字でも、下の名前でも…」

『A…ちゃん』

そう僕が呟くと彼女は、否、Aちゃんは急に項垂れた

「あぁぁ…ただでさえ好きな声なのに名前呼ばれるとやっぱ照れるっすね……」

もう酔いのせいなのか緊張なのか分からないけど
口調がぐちゃぐちゃになっていくAちゃん

『なんか…甲斐田も恥ずかしい……』

「社員でありながら推しからの供給…たすかりゅ〜……」

そんなことを言いながら近くにあったクッションに顔を埋めるAちゃん

いやそれこっちの台詞なんですけど
ため息が出るくらいには可愛い

なんか今日の僕本当におかしいな

「あの」

クッションからひょこっと顔を出すAちゃん

「やっぱり呼び捨てがいいです」

『ハードル高くない…？』

「いや、甲斐田晴ならできる。これはお仕事です！」

なんと、まさかの下の名前を呼び捨てにして呼んで欲しい
ときたか……

『……A？』

「んん〜〜！」

またしても声にならない叫びで顔をクッションに隠しながら悶える彼女

悶えたいのこっちなんですけど！？

『ああもうその反応恥ずかしいからやめてっ！』

顔が火照ってきた

これはアルコールのせい、うん、絶対違うけど。

「ふふ、嬉しい、仲良くしてね晴くん」

あー、もう。

僕に満面の笑みを浮かべながら言うもんだから

咄嗟に彼女の細くて白い指を僕の指と絡めた

「え」

『ずるいです、他の男に絶対それやんないで』

「や、やらないから…近いですって……」

そんなやり取りをしてる時ガチャっとドアが開いた

「ごめん遅くなった〜てか迷子になりかけた〜って…甲斐田Aちゃんになにやってんの」

か、か、か、叶さぁん！

『これは違うんです！違くないですけど！不可抗力で！』

「僕はお前のために！布巾を！取りに行ってたんだぞ！」

袖が濡れてたことも、すっかり忘れてた