徒然譜置場【気象】 (ページ4)

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熱愛．4 ページ4

「………泣いてる」

「……………泣いてねえ」

オートロックを開けてすぐ、玄関の扉を開くと、少し息の上がった松本が立っていた。無造作で整えられてない髪。マスクと眼鏡だけで変装とは言えない格好。着の身着のままといった所か。

どうでもいい事を考えてるうちに、松本の手が伸びてきて俺の頬に触れた。親指で涙の筋をなぞられる。泣きたくて泣いたんじゃない。泣きたくないのに勝手に涙が落ちただけ。涙脆いのは歳を取ったせい。俺はその手を弱々しくも下ろさせた。

「やめろよ馬鹿、ドア開けっぱで。誰かに見られたらどうすんだよ」

「翔くんとなら見られてもいい」

真っ直ぐで茶色い瞳が俺を捕える。力を入れてないと引っ張られてしまいそうで、松本の腕を引き玄関の中へ入れると扉を閉め、鍵もかけた。

「馬鹿……。自覚持てよ。撮られたばかりだろ」

顔を見ると赦してしまいそうになる。俺は下を向いて、引いた腕を離そうとするが、そのまま松本は俺を抱き寄せた。

「…翔くん、翔くん。ごめんね、不安にさせて。ごめん」

直接耳に届く低くて優しい声。どこか震えているようにも感じ、そこでやっと気付く。不安だったのは、松本も同じなのだと。

自分が情けない。年甲斐もなく妬いたりして。松本の事をしっかり信じていなかった。

松本の背中にも腕を回す。最近会えていなかったので、なんだか懐かしく感じる。少し痩せたのか。以前より細く感じた。
最近、また新しいドラマの撮影も始まったって言っていたのを思い出す。そうだ、松本も疲れてるし、大変だよな。

「松本、俺も悪かった。もう大丈夫だから」

やっと見る事ができたその顔はやはりまだ不安そうで、俺は堪えられず笑ってしまった。
松本は笑った事に不満そうにしたが、間もなくして笑顔になっていた。
ああ、好きだな。

結局、拒む事なんて出来るわけがなく。でも、松本がいなくなる事の方が耐えられない。
こんな自分の気持ちは、もう少し彼には秘密にしておこうか。