【npl】春一番

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(side：L)

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「そうだけど」



　俺がそう答えると目の前の女子は突然頭を抱えた。

　状況を上手く飲み込めていない俺を置いて、女子は「気にしないで」と恐ろしくか細い声で言う。いや気にするわ。



「穂高Aです。名簿が藤崎くんの後ろ」



　落ち着きを取り戻した女子、もといクラスメイトの穂高。「藤崎蘭、よろしく」と我ながらぶっきらぼうな挨拶を返しつつ、席から退いた。

　どうやら俺の席は一番後ろではなく、その一つ前の席だったらしい。穂高曰く。

　本来の席へ腰掛けポケットからスマホを取り出す。
　某メッセージアプリを開き、俺に席を教えた張本人であるすぎるとのトーク画面を見る。





すぎる蘭たん席後ろの方やで!ラッキーやん



　なにがラッキーだ。改めて見返すと情報がほぼ無い。あやふやにも程がある。お陰で盛大に席を間違えた挙句、それを女子に指摘された。

　それに対して【余裕でゲームできるわ】とか何も考えずにアホな返信をしている過去の自分を恨む。これじゃあ自業自得だ。



「あの」



　スマホと睨めっこしていると肩甲骨の辺りをとんとんと軽く叩かれる。思わず肩が跳ね上がる。

　恐る恐る片方のイヤホンを外し、後ろの席に座る穂高の方へ身体を向けた。どうしてだか彼女は申し訳なさそうな顔をしている。



「私、だいたい荷物全部持ち帰ってて。紛らわしくてごめんね」



　いい人かよ。

　まず出てきた感想がそれだった。
　なんか、いい人すぎて色々損してそう。まだ出会って数分の人に思うことではないのだけれども。
　


「いや別に。こっちもちゃんと席確認してなかったし……」

「よかった。とりあえず一年間よろしくね」



　そう言って人懐っこい笑みを浮かべた。陰キャには到底直視できない明るい笑顔だ。

　今までの人生、女子とあまり関わってこなかった身として、「よろしく」とひとこと返すことが精一杯だった。



　どうか顔が引きつってませんように。



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