6 ページ6
・
「あ、お帰りなさ……い?」
職員室の入り口で待ってくれていた秋山さんが、戻ってきた私を見て首を傾げる。
無理もない。私の手元には先程とは別のプリントを持っているからだろう。
「教室に戻ってクラスの子のプリントを、机の中に入れておいてほしいと言われまして」
人使いの荒い担任だなあとつくづく思う。
担任の先生から渡されたクリアファイルの右上には『藤崎 蘭』と書かれた付箋が貼られていた。
「それって蘭たんのですか?」
__蘭たん
昨日、杉岡さんも藤崎さんのことをそう呼んでいたことを思い出す。
彼もまた彼女の知り合いのようだ。
「お二人とも藤崎さんのお知り合いなんですね」
「二人?……ああ、すぎるさんのことか。はい。知り合いというか、友達ですね」
「同じ中学だったんですか?」
「むしろ全員違う中学出身ですよ。まあこの話は話し始めると長いんで……」
正直驚いた。
1年生が入学前から3年生と友達同士。しかもあだ名で呼んでいるから、てっきりそうだとばかり思い込んでいた。
ますます藤崎さんの謎が深まる。
「それ、俺が持っていきますよ」
私の手からするりとクリアファイルが抜き取られる。
「ついでに蘭たんに貸してた漫画返してもらうんで」
かっこつけた顔で私に笑いかける秋山さんを、とりあえずスルーして一言「お願いします」と頼み、昇降口まで歩いた。
下駄箱で靴を履き替えていると、「穂高さん」と声をかけられる。声の主である秋山さんに顔を向けた。
「蘭たん、悪い子ではないから。仲良くしてあげてください」
一瞬見えた表情が、どことなく神妙な顔つきだったから、何事かと思った。
「はい。まあ、まだ会ったことないんですけどね」
秋山さんは「そういえばそうだった」とケラケラ笑ってみせた。
この短時間でよく笑う人だと分かる。第一印象はクールな感じだったけれど、意外にも笑いの沸点が低いようだ。
「じゃあそういうことで」
自転車の鍵を人差し指でくるくると回しながら秋山さんは去っていった。
三年生の杉岡さん、秋山さんと知り合いの藤崎さん。
二人から名前の後ろに『たん』と付けて呼ばれているし、さぞかし可愛い子なんだろうと想像する。
名簿は前後だし、仮に嫌でもよく関わることになるだろう。
「仲良くなれるといいな、藤崎さんと」
人気の少ない昇降口に、私の願望だけが響いた。
・
111人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぱるぱる(プロフ) - けみすぅさん» お待たせしました……!ありがとうございます、頑張ります!! (8月12日 15時) (レス) id: 7a8872ac1a (このIDを非表示/違反報告)
けみすぅ(プロフ) - お待ちしておりました…、!!無理ない範囲で更新頑張ってください楽しみにしてます…♡ (8月9日 4時) (レス) @page18 id: 32d0e6279e (このIDを非表示/違反報告)
ぱるぱる(プロフ) - 八分雨_さん» ありがとうございます!!!!エモすぎて泣きました…… (2021年6月12日 20時) (レス) id: c973c4b273 (このIDを非表示/違反報告)
八分雨_(プロフ) - 初コメ失礼します!作品めちゃくちゃに大好きです!…夏終わりませんよね… (2021年6月10日 6時) (レス) id: 1ae85e2dd8 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるぱる(プロフ) - 散歩雨さん» アッアッアッありがとうございます!!!!そう言っていただけてとても嬉しいです!伸びるように更新頑張ります! (2021年5月28日 21時) (レス) id: be4d8b08b6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぱるぱる | 作成日時:2021年5月12日 0時