【npl】春一番

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　今日は厄日だと思う。それも飛びっきりの。



　中嶋さんは部活の先輩に挨拶しに行くと言ってその場で別れた。

　上履きからローファーに履き替えて外に出たところ、休憩中だった杉岡さんと鉢合わせた。首にかけたタオルでほんのり浮かぶ額の汗を拭いながら「今帰るところ？」と声をかけられたので、「部活見学です」「あー、そんな時期やね」なんて言葉を交わしていた。

　杉岡さんの視線が、ふと私の後ろに向く。



　「すぎるさん」



　それは澄んだ空気の様な落ち着き払った声だった。

　私の肩はびくりと揺れる。

　彼が誰だなのかすぐに分かった。今朝がた教室に現れた、藤崎くん、秋山さん、杉岡さんと仲の良い人物。



　「おお！はっちやん」
　「あの、教科書返してもらえますか？」
　「ごめん！！忘れとった！！すぐ持ってくる！！」



　杉岡さんは「穂高さんもごめんな！」と私に言うと大慌てでその場から立ち去ってしまった。私は恐る恐る『はっち』の様子を窺う。



　＿＿穂高。



　私の名字を聞くと、彼は顎に手を添えて少し考えるような素振りをした。だけどすぐに「いや、なんでもないです」と彼は普通の様子に戻ってしまった。

　このままここに居てはぼろが出るのも時間の問題だ。
　杉岡さんには申し訳ないけれど、私は帰宅、即ちこの場から逃げることを決意した。

　「すみません。そろそろ電車の時間なので……」と切り出してみると、特に引き止めることもなくただ一言「お気をつけて」と返ってきた。ぺこりと適当に会釈をして私は校門まで走った。



　心臓がバクバクとうるさい。

　これは走ったせい。きっとそうだと、私に言い聞かせた。

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