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 心臓の音がうるさい。

 あからさまに動揺しているのが自分でも理解できる。なにせ急に椅子から転げ落ちて、その場から立ち去って。藤崎くんも秋山さんもきっと不審に思っているに違いない。どう弁明しようか。いっそ話してしまう?私の考え過ぎかもしれない。

 ぐるぐる巡る思考と、どくどくと鳴り止まぬ心音を掻き消したくて、水道の蛇口を勢いよく捻った。

 ザアザアと水が滝のように流れ出すのを、ぼうっと眺めていた。


 「穂高さん?」


 名前を呼ばれてはっと我に帰り声の主へと目を見張る。
 明るい短髪で、練習着と青いスリッパの男子生徒。何度か顔を合わせたことがある知人の姿がそこにあった。

 藤崎くんの友人で、三年生の杉岡さん。

 杉岡さんは私の奇行に驚いた様子で目を見開いていた。が、私の顔を見るとふっと笑みをこぼす。「先生に怒られるで」と柔らかい声色でこちらの方へ歩み寄ると、蛇口に手をかけた。水流の勢いは徐々に収まり完全に止まる。

 何事も無かったように杉岡さんは言葉を続けた。


 「蘭たんもう学校来てる?」
 「き、来てますよ」


 若干たどたどしい話し方になってしまったが、平静を装う。


 「杉岡さんも藤崎くんに用事ですか?」


 私の言葉に「も?」と首を傾げた。不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。秋山さんが来ていることを教えると、急に教室の方へと駆け出した。


 「先越されたァ!」


 ……彼も秋山さん同様に保健の教科書を忘れて、持っていそうな藤崎くんを訪れるつもりだったのだろう。なんとなくそんな気がした。私は杉岡さんに続いて小走りで教室へと戻った。









 教室に戻ると予想通りの光景だった。

 教科書を自慢げに掲げる秋山さんと、それに手を伸ばすもぎりぎり届かなくて悔しそうな杉岡さん。その持ち主である藤崎くんは我関せずといった様子でスマホを触っていた。


 「あ。どんくさ穂高おかえり」


 藤崎くんだけが私に気付き、こちらを一瞥する。好きで椅子からずり落ちた訳では無い。


 「やめてよ……ねえ。三人が仲良いのって、」


 私はずっと気になっていた彼らの関係性を聞こうとした時、藤崎くんは「四人」と私の言葉に被せてきた。


 「あともう一人。仲、良いやついる」


 彼がずっとスマホを触っていたのはその人を呼ん「もうすぐ来るよ」と言葉を続ける。


 そう言った矢先に、四人目の人物が姿を現したようで。

 私は廊下の方へ視線を移す。

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ぱるぱる(プロフ) - けみすぅさん» お待たせしました……!ありがとうございます、頑張ります!! (8月12日 15時) (レス) id: 7a8872ac1a (このIDを非表示/違反報告)
けみすぅ(プロフ) - お待ちしておりました…、!!無理ない範囲で更新頑張ってください楽しみにしてます…♡ (8月9日 4時) (レス) @page18 id: 32d0e6279e (このIDを非表示/違反報告)
ぱるぱる(プロフ) - 八分雨_さん» ありがとうございます!!!!エモすぎて泣きました…… (2021年6月12日 20時) (レス) id: c973c4b273 (このIDを非表示/違反報告)
八分雨_(プロフ) - 初コメ失礼します!作品めちゃくちゃに大好きです!…夏終わりませんよね… (2021年6月10日 6時) (レス) id: 1ae85e2dd8 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるぱる(プロフ) - 散歩雨さん» アッアッアッありがとうございます!!!!そう言っていただけてとても嬉しいです!伸びるように更新頑張ります! (2021年5月28日 21時) (レス) id: be4d8b08b6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぱるぱる | 作成日時:2021年5月12日 0時

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