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《…最後の誘惑にも抗う、か。それもいい。それも面白い。…君がどんな人生を送るのか、僕はすごく興味深いよ。》
「まどろっこしい!帰すか帰さないか!はい答えて早く答えて今!すぐ!」
イライラが爆発し、回りくどいそいつを急かす。
《帰してあげるよ。そもそも君の主人公が誰か答えられたところで帰す予定だったんだ。でも僕は》
「はいストップ。もう大丈夫だから帰して、早く。トロトロしてられないの。」
また長々と続けそうな、実体のない声だけのその人を留めた。
《仕方ないね。振られてしまって長々と引きずるのは確かに男らしくない。よし、ここは潔く諦めて帰してあげるよ。》
「もっと早くに諦めてよ…」
《そんなの土台無理な話だね。》
「偉そうにしない。」
《手厳しいことだ。…そうか。分かった。それじゃあ、丹田に力込めて目をつぶってて。ミスったら体がばらばらになるよ。》
寒気を感じ、慌ててへその上あたりにある丹田に集中して力を込め、目をぎゅっと閉じた。
《じゃあね、楽しみにしているよ。君の絶望の先を。》
誰かが私の肩を叩き、耳元で吐息混じりに囁く。
それにゾクッと身体を震わせた瞬間、体がどこかに引っ張られる感覚がした。
存在感が根元からごっそり持っていかれた感覚。
自分の存在が足の先から消えていくような錯覚に陥り、恐怖で肝が縮む。
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