始まりの夏の世界 ページ16
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そこは、海の世界だった。
魚も珊瑚も何も無いそこは、ゴツゴツとした灰色の崖に囲まれていた。
頭上からは光が差し込んでくる。
初めはパニックになったけど、息が出来ると気付いて、今は落ち着いた。
コポコポと泡が上にゆっくりと登っていくのを眺める。
静かな所だった。
優しくて、何も無くて、少しだけ、寂しい場所だった。
懐かしい様な、愛おしいような感じがして胸が締め付けられる。
ふと、誰かがやって来るような感じがした。
ゆったりとした足どりでやってきたその人は、優しそうな、泣きそうな、この世界と同じ水色の瞳を持つ男性だった。
[空、空。]
やっと会えたね。と言うその男性に見覚えは無い。
「誰ですか?」
と問うと、泣きだしそうに顔をクシャっと歪める。
[そう…だよね。君は僕の事は知らないからね。]
僕は、君の瞳だよ。と笑っているくせに泣きそうな顔でそう言う。
優しいミルクティー色のゆったりとしたウェーブを描く髪は波に揺れる。
「私の…目?」
[うん。説明すると長いんだけどね。聞く?]
「……それは、私の能力について、ですか?それを聞いて、みんなを助けられますか?」
彼は己の主である力強い少女に微笑む。
[君次第だけど、助けられることは出来るよ。]
「…じゃあ、聞きます。聞かせてください。」
そうして男性は、何故日本人だけ能力を持つものが現れるのか、自分達は何者なのかを話した。
[君にはね、生まれ持った使命があるんだよ。空。]
「し…めい?」
[強くて優しい空。それは自分で思い出さなければならない。その時、君が思い出した時、僕の本当の力が引き出せるよ。]
だって君は、君達は運命の乙女なのだから。とその男は語った。
「父さんは、引き出せなかったんですか?父さんは使命を持ってなかったんですか?」
[陸は……君の父さんは、君を守るという使命を持っていたんだよ。
もし空が産まれた時から、僕が君を依り代にしていたら、君は確実にどこかで死んでいた。
それほど弱い運命を持った子だったんだよ、君は。守り手が必要だったんだ。]
使命を持って生まれた、とても珍しい子なのにね。と男性は言う。
男性は、優しいゆっくりとした話し方で話している。
静寂を好みそうなこの世界も彼の声は受け入れているように、男性の声は決して大きくないのに空にはハッキリと聞こえる。
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