ねぇ、先生。 (ページ2)

今日:6 hit、昨日:1 hit、合計:3,046 hit

#01 ページ2

.

「ほんとに大丈夫？しんどかったら行かなくていいのよ？」

「大丈夫だって、母さん心配しすぎ」

「だって〜！」

何回も何回も私に語りかけてくる母に思わず苦笑い。
大丈夫だよ、という言葉を口走るのはもう何回目かな。

新しい制服に身を包んだ私の後ろをいつもよりも着飾った母さんが追いかけてくる何気ない朝。
いつもよりも少し賑やかな家の中は慌ただしく母があちこち行き交う足音でいっぱいだった。

今日は高校の入学式。
私にとっては待ちに待った日で、少し不安な日。

「あれ、もう行くん？時間早ない？」

「なんか念の為に早く行くんだって、お兄ちゃんこそ大学は？」

「今日は午後から。てかリボン曲がっとるけど、身だしなみくらいちゃんとしぃや」

「えっ、うそさっき見た時はちゃんと真っ直ぐだったのに！」

急いで玄関横の鏡を見ると曲がっている赤いリボン。チェック柄のこの色が私はお気に入りだ。

そんな私を見て小さくため息を漏らすのは大吾お兄ちゃん。私よりも10近くも上で今は大学院生。
いっつも私にちょっかいを掛けてくるいつまでもお子様なお兄ちゃんだ。

ちゃんと真っ直ぐに直してから階段を降りてくるお兄ちゃんに見せると、適当に頷かれた。
「あーはいはい可愛い可愛い」なんて言って。

身だしなみちゃんとしろって言ったのお兄ちゃんなのに、何よその言い方。

私が一人頬を膨らませると、小さく笑ったお兄ちゃんはリビングに消えていった。
その代わりに慌てた様子でカバンを持って出てきた母さん。

転けるよ、って笑いながら言ったら母さんは大丈夫って笑って返した。
いつまでも慌ただしいんだから。

もう一度、鏡を見て髪を整えてから新品のスニーカーの爪先を鳴らした。
この日と今後の学校生活の為に新調した可愛いデザインのスニーカーのお陰で気分も上がる。

「忘れ物ない？吸入器は？薬も持ったね？」

「はいはい持ちましたー、早く行かないとバス来ちゃうんじゃない？」

玄関の扉に手をかけたと思ったらまた振り返って忘れ物の確認をしてくる母さんを無理やり外へと押し出す。

母さんは時計を見てギョッとしてから小走りで家の小さな門を開けた。
ほら行くよ、と手招きしてくるので私もそれに続いて家を飛び出す。

「行ってきまーす！」

冴えない私の、小さな物語が
今この瞬間始まった。

.