30時間目 ページ30
隣の人が居ないみたいなので、玄関でその人物を待つ。
「やあ、赤羽」
「･･･A、さん」
僕が待っていたのは赤羽だ。
実のところ、あんなに人に囲まれてちょっと疲れたんだよね･･･。
「顔が少し赤いけど、何かあったのかい？」
「そこに触れないで･･･」
いつもの覇気がない。
･･･ターゲットに何か言われたな。さっき教室にいなかったし。
「･･･あんたはさ、何でも出来るよね」
「何？嫉妬？」
そう睨まないでよ。綺麗な顔が勿体ないよ？
「･･･だったら？」
「あ、素直に認めるんだ」
正直に言えた赤羽にはご褒美と言う名前の『僕の答え』をあげよう。
「･･･僕がこの証明書を取得したのは12歳の時だ。取得しただけで満足してはいけない。何故だか分かるかい？」
内ポケットに入っていた証明書をひらつかせながら言った。
「･･･忘れるから？」
「そう。人間は忘れる生き物だ。だから、メモを残すことで過去に書き残していたことを、覚えていた事をを再び脳に刻む･･･。この行為に覚えはない？」
「復、習･･･」
赤羽の口から、僕の求めていた単語が出てくる。
･･･ちゃんと分かってるじゃん。
「僕がその証明書を取得しただけで終わっていたら、今回のような成績は取れていないよ。それに、今回の君の勉強態度を思い返してみて？･･･その結果に納得いくだろう」
悔しそうに顔を歪める赤羽。
あーあ、そんなに唇噛んだら血が出ちゃうよ？
「大丈夫だ、まだやり直せる。次のテストでリベンジするんだ」
僕は赤羽に急接近し、綺麗な形をした顎にそっと手を添える。
赤羽は目を見開いて僕を見る。
暫く見つめ合っていたが、赤羽が口を開く。
「･･･そうだね。次こそは･･･、あんたを超える」
「･･･口を開けたと思えば。その言葉、覚えておくよ」
暫くして、僕たちの体勢を偶々見てしまったターゲットに、キャーキャーと言われながら色々迫られたのは別の話。
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作者名：恵野 | 作成日時：2019年6月7日 21時
