プロローグ ページ1
『でさ、そこでミヅキが泣き出してね？それで私もなんかグッときてさ、』
「へえ、そりゃよかった」
『絶対思ってないでしょ』
なんで分かんないかなあ、とぼやきながらケ−キを頬張る。
いくら推しの話をしても一向に良さが伝わる様子がない。
目線すらこっちに向けずに適当に相槌を打つ親友を見て少残念に思うが、それを言及したところで今更といった感じなので、気にせず続ける。
昼下がりのカフェ、窓辺の席で暖かい日差しにまどろみながら少し冷めた紅茶をすすると口の中に広がる甘い香りが心地よい。
とても気持ちの良い天気だった。それこそ、リラックスするには最適と言っても過言ではないくらいに。
何処かで見た記憶の片隅の詩の言葉をかりるなら私達は油断していたのだと思う。
というか、そもそも大多数の日本人は日常生活を送る上で油断仕切っているものだし、
殺害予告が届いているとかそういう特殊な人以外何かを恐れる必用もない。
ましてや、世界が終わるかなんて考えない。
もちろん私だって考えてなかったし、何なら馬鹿らしいとすら思っていた。
それくらい、ありえないこと、だったはずなのに、
「ねえ、あれ何？」
予備動作もなしにすっと顔をスマホから外した友人の第一声がそれだ。突然の質問に戸惑ってしまう。
急にどうしたの、あれって何よ、てか話聞いてよ、とか、いろいろ言おうとした言葉は頭の中にあったはずなのに、そんな私の言葉は、窓の外を見た瞬間に消え去った。
そこには不思議な光とともに石化していく人々という、なんとも奇妙な光景が広がっていた。
『何あれ？？、、、』
思わずオウム返ししてしまう。
だって、しょうがない。私にだって分かるはずがない。
真っ暗になった視界の中でなんの根拠も無いけど、ああ、石化したんだな、と察する。
ー私が馬鹿げてると思っていたそんな、"ありえないこと”が起こって、
そして、私がそれに巻き込まれるなんて。
夢にまで思っていなかった。
私は謎の光とともに飲まれていく意識に身を任せて、そっと意識を手放した。
天国でも絵はかけるのかな、なんて考えながら。
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作者名：ハント | 作成日時：2023年3月16日 8時
