◇ 朝の挨拶 ページ3
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A Side
「…よし、全部ある」
何度目かの荷物チェック。忘れ物というものが怖すぎてもうすでに10回ぐらいは鞄の中を漁っているかもしれない。
全て確認して取り出した物たちを鞄の中に詰めていく。きっと忘れ物は無いはず…多分。
玄関に鞄を置いてリビングの全身鏡を見てから今度は自分の身だしなみチェックを始める。
どこも変じゃない、リボンもカーディガンもジャケットもある。ちゃんとスカートだって丈はピッタリ。
カーディガンの色は、あの人と同じ紺色だ。
それがまた嬉しくて手の甲まで伸びる袖で顔を覆う。大好きな匂いが漂ってきそうだけどまぁ香るのはうちの柔軟剤の匂い。
そりゃそうか、着てるのは私だもん。
けどアイツが着ればきっと、もっとオシャレになんだろうなぁ。私なんかが着るよりも。
壁にかけてある時計を見て、私はスカートのシワを手で叩いて伸ばしてから髪の毛を手櫛で整える。
こんな私も少しでも可愛く、アイツと会うならば。
よし、準備は万全。
最後に飼っている愛猫の餌を上げて癒されてから早足で玄関へと向かう。
スクール鞄を肩にかけて履き慣れないローファーを履いてから私は玄関の扉に手をかけた。
「いってきます」
誰もいないしんとした部屋に向かって今日も私は挨拶をした。
これが私にとっての一日の始まりだから。
古めのアパートの階段をゆっくり降りてそのまま目的地に向かって歩き出す。
今日は天気もいいからか、周りもキラキラ輝いて見える。
それは私が上機嫌だからなのかは分からない。
けれど待ち合わせ場所に近づくにつれて自然と足取りは軽くなっていく。
早く会いたい。会って、おはようって言いたい。
あの人は返してくれるかな。
見慣れた道を歩き続けていると見えてくる曲がり角。
あそこを曲がれば、目的地。待ち合わせのバス停だ。
それを思い出すだけで胸が踊る。
頬が緩んで、口角も上がってしまったり。
今日も会える。いつでも会えてしまうんだ。
こんな幸せなことはきっとない。
曲がり角を曲がって目に入る昔から変わらないバス停。
そのバス停付近に見えるいつもの四人の人影。
その姿を見つけて私はまた小さく微笑むと走り出した。
今日も私の一日が始まる。
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作者名：KAI | 作成日時：2023年7月10日 13時
