参 ページ6
家の玄関に入り、二階にある日里さんの部屋へ向かう。彼はいつもここで作業をしているのだ。
彼の部屋の前で足を止め、ノックをして扉を開ける。
そっと中を覗けば、机に向かって黙々と作業をする日里さんの後ろ姿が見えた。机の上には工具や小さなネジが散らかっている。こうして見ると普通に修理している様にも見えるが、それだけではこの店の評価には至らない。一体どうやって新品同様に修復出来るのだろうか。
「煌凜、何か用か」
作業をしながら日里さんが問うた。一瞬だけ驚くが、「あ、修理依頼のお客さんが来てます」と簡潔に要件を伝える。彼は「分かった」と返事をし、すぐ作業を止めて、部屋から出て来た。気になる点があるのか、ぶつぶつと何かを呟きながら首を回す。長くあの場所で作業していたらしく、彼の目の下には薄っすら隈が出来ていた。
カウンターに戻ると、依頼人の少女はこちらに気付いて慌ててカウンター前へ戻って待機した。どうやら店内をウロウロしていたらしい。店内には綺麗なアンティーク商品が多いから、彼女の気持ちは凄く分かる。
日里さんはカウンター奥にある椅子に座り、帳簿を取り出す。俺が少女に椅子を用意すると、照れながら「ありがとうございます」と軽くお辞儀をして座った。
「予約ではないな。名前は?」
「は、はい。
顔を俯かせたまま答える少女。
(珍しい苗字だな……)
再び掃除を再開させた俺は、チラチラと彼女を盗み見る。
どうやら彼女は人前に出るのが苦手なタイプらしい。現に耳が赤く、とても緊張感している事が分かる。
一方の日里さんは淡々としていて、彼女の行動にも気に留めない様子だった。
「依頼の品は何だ」
「あ、ちょっと待ってください……」
五百扇さんは両腕で抱えるリュックから、長方形の小箱を取り出す。古い木製の小箱で、お世辞にも綺麗とは言えない代物だ。
彼女は徐に箱の蓋を取ると、中からはこれまた古めかしい髪飾りが入っていた。
「これを直してほしいんです」
桜をモチーフに作られた硝子細工が彩る髪飾りだった。デザインは古風な物だが、細部までこだわった美しい一品。
しかし、その髪飾りはメッキが剥がれ落ち、硝子細工が一部ひび割れていた。とても通常の業者では直せない物だ。
そう、“通常なら”だ。
「ほう、雅な髪飾りだな」
「……ありがとうございます」
日里さんが髪飾りを褒めると、五百扇さんは少し嬉しそうに言葉を返した。
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作者名：十二月三十一日 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年3月13日 2時
