参拾 ページ33
男性はその写真をじっと見つめる。思い当たる所があるらしく、何度か写真から目を外して考える。只、写真が古いせいなのか、あまり確証が無いのか分からないが、彼は悩んでいる様にも見えた。
「祖母の手紙に“�兮隋匹般樵阿�ありました。ご存知ないですか?」
彼女の発言に、男性はピンと来た様子で目を見開いた。そして、「へぇ……」とにやけながら呟き、写真を彼女に返す。
「この男が�兮腓�。分からなかったのは、人の姿からか。良いだろう、案内しよう。少し下山するが良いか」
五百扇さんが静かに頷くと、男性は背負っていた薪をその場に置き、俺達が来た道を戻っていく。俺達もその後を追った。
勿論、戻りの階段も同様に滑る。下りの階段は下が見えてしまうから、登りの時よりも恐怖心を掻き立てた。その度に男性がせせら嗤うので、彼の笑い声を聞く度に苛立ちを覚える。案内してくれるだけ良いのかもしれないが。
階段を降り、途端に男性は足を止める。そこは山の入り口をから入って最初の分かれ道がある所だった。道は三本に分かれており、真っ直ぐ続く道は更に上へ登る階段。残りの二つは左右別々で山奥に続く道になっている。
彼はこの内左側の道を指差した。
「この道をひたすら真っ直ぐ進み、行き止まりにある小さな祠を右に曲がれ。そこに、小さな木造の家屋がある。そこに�兮腓�居る筈だ」
「本当ですか」
「嘘を吐いても良い所だったのだがな。十分楽しめたし、私も揶揄うのに飽いた。何処へでも行くが良い」
男性は、すぐさま来た道を戻ろうとする。しかし、それを五百扇さんが止めた。
「待ってください。まだお礼が……」
「お礼? 小娘、時として媚を売る相手を間違えぬ方が身の為だぞ。特に妖の前ではな。私は只、我が親愛なる友の御前で彷徨かれるのが、心底不愉快だっただけだ」
振り返った男性は不敵に嗤い、冷酷な言葉で突き放す。五百扇さんは怯え、俺の背後に隠れてしまう。今の言い方は無いだろと睨みつけるも、男性はどこ吹く風と言わんばかりに再び踵を返し、言葉を添えた。
「妖は人を喰らう為、態と付け入る事もある。全てがそうでなくとも、人も妖をしっかりと品定めする必要がある。小僧も馬鹿で無いなら、判断を誤るなよ。命が惜しければな」
振り返らずに発した彼の言葉に背筋が凍る。そして、鉛の様に重かった。
「態度には呉々も注意するが良い。では、二度と会わん事を……」
男性はそう言い残し、天まで続く階段を登って行った。
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作者名：十二月三十一日 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年3月13日 2時
