弐拾陸 ページ29
続いて、俺は瓜生さんに小刀を差し出す。
しかし、彼が小刀を取ろうとする指先が触れた瞬間、すぐに手を引いた。その後、顎に手を添えて黙考し、こう答えた。
「僕には、それを触る事が出来ません」
それはどう言う事なんだ。
募る疑問と裏腹に、瓜生さんも予想外だったらしく、困惑した様子で続ける。
「あくまで推測なんですが、小鳥遊さんの探し人は恐らく探してほしくないのかもしれません。数年以上、この手の依頼は受けてますが、ここまで拒絶されたのは初めてです」
探してほしくない?
これは、俺がその影を追っている事を知っていて、軌跡を追おうとした彼を妨害したと言うのか。
そこでこの間見た夢を思い出す。桜の木の上で、白い着物の女性は言った。まるで俺がこの町に来た事を歓迎したくないと言いたげな言葉。
「どうして此処に来てしまわれたのですか」と──。
瓜生さんは頭を下げて謝罪した。彼は全く悪くない。只、俺が助けを必要としたから。協力してくれただけだ。俺はすぐに瓜生さんの頭を上げさせ、大丈夫だと伝えたが、それでも尚、彼は暗い顔をしていた。
此処はポジティブに考えるべきだ。せっかく五百扇さんの祖父の居場所を突き止めたのだから。これは大きな収穫と言っても過言ではない。
今はただ──そう思って居たかった。
瓜生さんと別れた帰り道、五百扇さんは何故か俺に謝って来た。「私だけが得したみたいで……」と終始浮かない顔をしている。
誰も悪くない。だが、結果は何とも後味の悪い物だった。その原因は俺なのか、この小刀なのか、それすら曖昧だ。
世の中上手くいかないものだなと、少しナーバスな気分で道具屋に戻る事になってしまった。
夜の10時頃。
寝る準備をして居た所に五百扇さんからメールが届く。内容は今日の事のお詫びと、早緑区の山には明日にでも向かいたいと言う旨のメールだった。本当に行動派な子だなと思ったが、これでは髪飾りを祖父に届けられない。此処は髪飾りの修理が終わったらにしないかと返信をする。だが、次に受信したメールには、「それではいつになるか分からないし、私には時間がありませんから」と書かれていた。確かにそうだ。彼女は数週間後には、此処を出なければならない。でも、一つでも届ける物が欠けていたら、彼女がわざわざ此処まで来た意味すら失う様な気がしたのだ。
最後に、俺は「なら、せめて三日は待ってほしい」と書き込み、送信する。五百扇さんは少し遅れて承諾のメールを寄越した。
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作者名：十二月三十一日 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年3月13日 2時
