拾 ページ13
「よろしくね」と茶目っ気たっぷりにウインクをされる。成人男性のウインク程見たくない物はない。
因みに、何故彼が次期当主なのかと質問すれば、「まだ家督は継いでないんだ。現当主は俺の母様だよ」と本人が親切にも答えてくれた。
「彼等とは腐れ縁でね、高校まで一緒だったんだよ。本当、全然変わっていない様で何よりだ」
「お前もな」
後から月寧さんから聞いた話によれば、雲類鷲兄妹と鳥羽山さんは幼馴染の間柄なんだそうだ。
特に日里さんと鳥羽山さんは何をするのも反りが合わず、仲が悪かったらしい。でも、手段が違うだけで目的は同じな事が多く、話し合わないだけで本当は仲が良いんだと彼女は言っていた。残念ながら側から見ていると、とてもそうには見えない。現にとても分かりやすい表情で日里さんの機嫌が徐々に悪くなっていくのが分かるのだ。
「それは置いといて、本題へ入りましょうかね」とても静かな口喧嘩がひと段落ついた所で、鳥羽山さんは俺に向き直る。
「煌凜君、今日は君に話があって来たんだ。例の御守りの話なんだけど」
やっぱりかと思い、お茶を一口啜る。
そして、まだ湯気が上がる湯のみを置くと、彼はタイミングを見計らって再び話を進めた。
「母様が御守り以前に、君に返したい物があるらしい。しかも、直接手渡したいと言ってね」
「まぁ、美空さんが……。でも、床に伏せているって言ってませんでした?」
「そうなんだよねー」
彼は気怠るそうに机にうつ伏せる。
月寧さんが言った“美空さん”とは、鳥羽山さんのお母さん、つまり鳥羽山家現当主の事なのだろう。会った事がないから分からない。
かつて、数年に一度親戚同士の集まりがあった。しかし、7年前に親戚一同束ねていた先代鳥羽山家当主の大婆様が亡くなって以降、集まる事がなくなった。
子供だった俺は、途端に来なくなった親戚について何度か訪ねた事があったのだ。両親が曰く、「鳥羽山家当主様は病弱だから仕方がないのだ」と駄々をこねる俺に言い聞かせていた。
その彼女が、病床についていながらも何故俺に会いたがっているのだろう。そして、御守りより優先させたいと言う、俺に返したい物とは何だろうか。
「だから、君を迎えに来たんだ。屋敷までの道が分からないと聞いたからね。此処まで車を走らせて来た」
彼の目的はただ一つ、俺を迎えに行く事だったらしい。
鳥羽山さんは茶が半分まで残った湯のみを置いて、和かに俺を双眸で捕らえた。
「案内しよう。俺の家へ」
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作者名：十二月三十一日 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年3月13日 2時
