92夏 - Yuta - ページ42
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そこに、いた。
ただひとり。俺が会いたいと焦がれた、Aが。
夢を見てるのかと思った。
そうじゃなきゃ、欲が強すぎたせいで幻覚を見てるのかと。
だけど目の前にいる彼女は
切らした息も、少しだけ額に張り付いた前髪も、
小さな風に揺れるワンピースも、
生々しく五感すべてを襲ってくる。
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『………待った？』
彼女の瞳は、熱を持ったように、それでいて濡れて
まっすぐまっすぐ、体の芯まで染み込んできた。
いたずらっぽく笑うA。
なぁ、俺一瞬で分かったよ。
おまえの記憶が戻ってきたこと。
「待ちくたびれた。」
プツンと糸が切れたように
Aはその目から涙を流した。
止まることを知らず溢れてくる。
そうしてそのまま、俺に向かって飛び込んできた。
『………ゆうたぁ…ッ、うっ………』
耳元で、声を上げて泣き出すA。
少しの隙間も許さないように
自分も苦しくなるぐらいに抱きしめた。
もう俺たち以外の何もかもが、どうなったって構わない。
Aがここにいること
抱きしめていること
俺の名前を呼んでいること
この状況すべてを受け止めるには
自分のキャパシティの限界を越えてた。
花火の打ち上がる音を背に
俺らは2人して、恥ずかしげもなく声を上げて泣いた。
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「A…、せっかくの花火、ちゃんと見ねーと。」
あれからどれくらい経っただろうか。
Aは背中を揺らしてしゃくり上げている。
『見てる、見てるよちゃんと………っ』
そう言いながらも、彼女はまだ涙声だ。
「…泣きすぎだって、」
『だって、…違うもん。
花火が綺麗すぎて………っ』
「だったら泣いてちゃ見えねーぞ？」
俺ら2人だけの世界だ。
あの夏と同じ言葉を口にしながら、
ただそうやって今を噛みしめていた。
Aを抱きしめながら上を見上げた。
閃光のように光を放ち、夜空を煌々と照らす花。
ふいに目線を下げると、
空を見上げようとするAと視線がぶつかった。
揺れる瞳に、自分が映り込む。
心がそうさせるままに、顔を近づけた。
唾を飲み込む音が聞こえる。
柔らかく瞼を閉じるAをこの目で見てから閉じ、
キスをした。
温かかった。
この空間に2人きりで閉じ込められてしまいたい。
冗談なんて微塵もなく、そう思った。
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雨音(プロフ) - mintさん» 素敵なコメントありがとうございます。昔から知ってくださっているんですね…！わたしも、以前から応援してくださっていた方にまた読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございました…！ (2020年9月11日 19時) (
レス) id: 22fe178912 (このIDを非表示/違反報告)
mint(プロフ) - おつかれさまです！完結おめでとうございます！わたしの青春がまた戻ってきた気がしました。当時高校生だったわたしが読んでいた作者さんはここにもツイにも少なくなってきてるので待ってました。おかえりなさい！今回もごちそうさまでした！ (2020年9月10日 2時) (レス) id: 8d5d81a4f3 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - あんさん» こちらこそ、本当に本当にありがとうございました。次回作もお付き合いいただけると嬉しいです！ (2020年9月8日 21時) (レス) id: 22fe178912 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 夏(なの)さん» 長い間飽きずに応援してくださったこと、本当に嬉しく思います。言葉選びはすごく時間をかけているので、そう言っていただけて感動してます。これからも応援よろしくお願いします！ただいまです…！ (2020年9月8日 21時) (レス) id: 22fe178912 (このIDを非表示/違反報告)
あん(プロフ) - 完結おめでとうございます！そして、本当に本当にありがとうございました！！ (2020年9月8日 6時) (レス) id: 885a2db44f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨音
| 作成日時：2020年7月31日 21時
