第三十話 ページ33
「お前、誰だ？」
どす黒いオーラを纏ったような、およそ少女や「正気」の「人間」が吐き出すとは思えない声色で「冴える」が言う。
その声は言外に自分のことのみを見るよう強制していて、だからその声を掛けられた時点でわたしの視界から他の人間は消えた。
「答える必要があるか？」
本来の口調に戻る。この蛇が相手であれば、外面を取り繕う必要などなかった。
「こっちに答えてもらう必要があるんだよ」
冷酷な笑みを見せる冴えるに、しかし怯むわたしではない。答える気がないのだ、貝のように口を閉ざすのも一つの手で、だから図太くも無言を貫くことにしてみた。
そんなわたしに、「冴える」は嘲るように哀れむように、薄く引き伸ばされた笑みと青筋を湛える顔を見せた。
「答えろよ、
□すぞ？」
あらまあ貴方の肩じゃあ銃を打つどころか持つことも難しいでしょうに、
ドスッ。
腹部に違和感があったので確認すると、「冴える」が不遜にもわたしにナイフを突き立てていた。
「ははッ…ははははは、あははッははは！！！」
わたしを押し退けて「冴える」が立ち上がる。そして、わたしに背を向けて団員の多い方へと向き直った。肩はひくついているがそれは笑っているせいだろう、さっきの肩が壊れた様子は迫真の演技だったと言わざるを得ない。
でも、「冴える」の行動は不正解だ。
人形の行動を止めるには、四肢をもぐしかないのだ。わたしの辞書に怪我という言葉はない。
わたしは腹部のナイフを抜いて、
「冴える」の背後から近寄り、
首元にナイフを突きつけた。
「ッ…」
流石に状況の呑み込みが早い。あとは煮るなり焼くなり好きに出来る、さてどうしようかと思ったところで、ヒビヤが
「傷つけないでよ、それ一応ヒヨリの体だし」
と言った。それもそうだ。
じゃあどうしようかな…などとのんびり考えていたせいだろう、「冴える」が頭突きをかまし、それによって出来た隙を突かれて逃げられた。「冴える」はそのまま銃を取りに行く。
不味い状況になった。「冴える」がのんびりと銃を構える。そして、引き金に指が掛かった瞬間…
「やめてッ！」
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作者名：一夏 白 | 作成日時：2017年10月12日 7時
