第二十九話 ページ32
「マリーちゃんッ!」
モモがマリーの元へと駆け寄る。その勢いにこそ敵わないが、他の団員も似たような物だった。
「無事か?」「怪我は」等と言った声がする。だが、それにマリーが応える気配は一向に表れない。
やがて、団員は徐々にマリーの異変に気がついていった。
真っ赤な目が、虚ろに飛んでいた。
「っ、マリーちゃん…」
そんな姿は見たくない、とでも言うようにモモがぎゅっと目を瞑る。
いくら呼び掛けても、マリーは何の反応もしない。いっそ物理で(物騒ではない)揺さぶってみようか、とハルカが実に心配そうな顔でマリーの真正面に立つ。
途端、発砲音。
ハルカが仰向けに倒れて水分と赤血球とその他諸々から成る液体がいっそ絵の具のように見える赤さを描いて人間の人間たる所以の一つがだくだくと流れてとくとくと広がって
GAMEOVER、九ノ瀬遥はしにました。
しかしオートで蘇生が掛かるのがハルカの強みだ。
黒い何かが急速にハルカの体を覆っていった。そして、
「…おお、ゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」
そう呟きつつ、鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔で、むっくりとハルカが起き上がる。いや喰らったのは本物の鉛玉だが。
改めて見ると物凄い能力だ、「目を醒ます」。傷口に蠢く黒い靄のような物はだんだん霧散していって、最後は服に赤い色が残っただけだった。
不意に起きて余りに早く終わった襲撃の(恐らく)第一波が、それこそ音波の共鳴の様にメカクシ団をざわつかせる。誰がやったか、はもう大体見当が付いているだろう。
わたしは不自然にならないようマリーの真後ろに回り込み、一呼吸置いてから後ろ向きに猛ダッシュ…する前に、たった一歩きりで柔らかな物にぶつかった。
どさり、と尻餅をつく音。わたしは振り返り、力加減はしつつ銃を撃った相手の首根っこを掴んだ。
銃の反動のせいか否かはともかく肩をひきつらせ、激しく咳き込みながらも笑っている。
わたしが組み敷いているのは、少女、の貌を取った赤い目の化物。
ヒヨリの体を乗っ取った、「冴える」だった。
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作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時