第四十話 ページ44
「私は、たった何時間かの短い間に、『瞠る』に対して激しく嫉妬するようになったんだ。
初めて感じる、濁流みたいな想いだった。ちっぽけな羨望とは比べ物にならないソレを…とても、甘美な物だと感じた。
『冴える』の執念さえ、理解できたみたいだった。
思えば、全部が当て付けだったのかも知れない」
私が「冴える」の計画に乗ったのも。
元々はそれほど乗り気でなかったソレに、下手な芝居まで打って積極的に協力したのも。
それからーーー「私」を「わたし」に、口調も中性的な物からですます調にしたのだって、「瞠る」に対する細やかな反抗みたいな物だ。
「『瞠る』に関係する誰か」ではなく、私は私として、「ミハル」として…メカクシ団に、仲間と認められたかったのだ。
「とにかく…私は、それまでよりも積極的に『冴える』に協力した。
『冴える』の計画の肝心要は、蛇の能力を全て備えつつあるマリーの体を乗っとる事にあった。そうして蛇の能力を活用し、蹂躪し、その力を以て自らの命を恒久たらしめんとしていた。副次的に、私を縛る者は無くなると、そういう話で、私に求められたのは裏切り劇場のキャストの役割だった。
それから、ケンジロウ、貴方もだ。長い期間『冴える』に寄生されていた事が、貴方の性格に少し悪影響を来たしている。それを利用してマリーを煽った訳だ。
唯一にして最大の誤算は、マリーがあまりにも強大にして脆弱だった事だ。精神の弱さ故に激昂し、能力の強さ故に全ての蛇を支配下に置いてしまった。私は危惧したが、『冴える』はその分精神の揺らぎが大きくなると踏んだようだ。そして、まんまと返り討ちに遭い…このザマ、と言った所かな」
長い独白に、取り敢えずのピリオドを打つ。
ケンジロウが、私の話をじっくりと反芻するようにしつつ言う。
「一つ、質問があるんだが。お前と『冴える』はどうやって意思の疎通を図ってたんだ?」
「蛇を使って」
「盗むと掛ける、か」
「『冴える』は、蛇を制御する実験とも思っていたようだ」
「『数世紀分もの成果』…か。俺も大層な事をしでかしたモンだよな」
それからまた、沈黙が流れる。今度それを破ったのは、アザミだった。
「『見張る』、お前、計画を諦めた理由を隠してるだろう」
少し愉快そうだ。或いは、私は赦されたのだろうか。しかし、質問は出来るならば答えたくない類いの物だった。
「…秘密だ。察して欲しい」
そう言って、目を逸らした。
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作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時