第二十七話 ページ30
わたしが、迷路の分岐点を前にして立ち止まる。すると、後ろに続く全員も止まる。通路はある程度狭く、部屋がどんな物か把握出来ていない人もいる事だろう。
「ちょっと下がって下さい。一旦出ましょう」
掌で押し退けるような仕草をしながら部屋の外に出る。最後尾にいたらしいモモが、
「部屋の中、どうなってたんですか？」
と訊ねて来た。簡潔に「迷路でした」と答えると、そういう類の物が好きでないのか、途端に苦々しい顔になる。ちょっと面白い。
「でも、目的地は分かってます。だから、そこまで迷う事はないだろうとは思います」
わたしがそう言ってもう一度部屋の中に入ろうとする。
「片方の壁に手を付けながら歩くと良いらしいよ」
カノが助言を寄越す。ありがとうございます、と呟いておいた。
扉を開けて、右手を壁に添えて歩く。しばらく迷路を進んでいくと行き止まりに来た。
「あれ？こんな筈ないんだけどなぁ」
カノが呑気に言った。
とりあえず苦労して列を入れ換え、元来た道を戻り、分かれ道を逆に進んでみる。それも幾らも歩かない内に行き止まってしまう。
完璧に迷っていた。
「ミハルちゃん、もしかして方向音痴…？」
誰かがそう言った。
「そっ…んな訳ないじゃないですか」
怪しさを滲ませる返答になってしまう。自分でも思ったより動揺していた。
汚名(本当に付いたかは知らない)を返上するため、ずんずんと効果音の付きそうな大股で迷路を歩く。
歩いては戻る。戻っては歩く。そして立ち止まる。
いつの間にか、わたしに向けられる視線が悉く呆れを含む様になっていた。自分から興味を逸らす為、先程から訝しげな表情をしているエネに話を振ってみる。
「エネさん、どうかしましたか？さっきからそわそわしてるみたいですが」
「いや…何か、落ち着かないんですよね。スリに気が付く数秒前みたいな…これ、もしかすると電気系統の制御を一部盗まれたかな…」
それから暫く、エネが沈黙する。薄暗い部屋の小さな光源だったスマホの画面がふっつりと暗くなって、数十呼吸の後に再び点った。
「いやぁ、出られない筈ですよ。この通路の壁、可動式の奴でした。刻一刻と道筋が変わるとか、無理ゲーですよね」
方向音痴疑惑についてか、すまん、ごめん、といった声が聞こえた。
「いや、しかし…考えると、すげぇ技術だな」
シンタローが感嘆する、いやそんな事してる場合じゃねぇよ。だって、
「それって…ここから出られないって事じゃ…？」
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作者名：一夏 白 | 作成日時：2017年10月12日 7時
