花蝶【歌い手】 (ページ2)

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No.1 ページ2

とあるマンションの一室。
暗い部屋に、カタカタとキーボードを打つ音が響く。

あめりる＠――――
メリーバッドエンド／あめりる【歌ってみた】

あめりること一ノ瀬彩羽。
歌い手として活動している。

2～4週間に1回、歌ってみたの動画をあげて、自己満足に浸っているだけ。

自己満足に浸るというのは、褒めてもらいたいわけじゃなく、ただ歌って、それを皆が聴いてくれるだけで良い。

聴いた側の感想なんて求めてない。

＠――――
うぽつです！

＠――――
聴きました！今回も最高でした！

＠――――
相変わらず神ですね

最高。
神。

そんなの、語彙力のない低脳が使う言葉。

低脳共は、どこが良くてどこが悪いという判断もせず、ただ漠然とした感想を述べる。

保育園児の方が、もっと正直な感想をくれるのではないかとさえ思う。

一応動画の方のコメントも見てはいるが、最初の方は｢うぽつです！｣の文字が淡々と流れていき、一部は｢あああああああ｣という意味のない弾幕がある。

叫びたいならコメントではなく現実で叫んでほしい。

そして、私もそれなりに他の歌い手さんたちと関わっているわけで、私の動画投稿のツイートを、皆素早く引リツしていく。

96猫さん、まふまふさん、そらるさんたちと、そこまでフォロワーに差はないし、ほとんど同じ人だから、引リツの必要性を感じないのが本心ではあるけれど。

ぼんやりと動画のタグを眺めていると、必ず存在している言葉。

『高嶺の花』

声だけで高嶺の花だと判断できる理由がわからない。

私はそんなにも、普通の人とかけ離れているだろうか。

容姿端麗、頭脳明晰、冷静沈着、才色兼備。

昔から、高嶺の花とは言われていた。

だけど、私が花にならなくてはいけない理由は？

花。
ずっと同じ場所で、咲いては枯れて、枯れては咲いてを繰り返す。

高嶺の花より、蝶々の方が、好きなところへ行けるのに。