夜 ページ21
苦しさを感じて目を開ける。
視界に入ったのは背中を向けて寝ている人間。そして右腕に重みを感じて視線をそちらに向ける。
ああ、またやってしまうところだったのか。
赤色の髪の毛を持つこの部屋の主が起きていないことを確認して静かに部屋から出る。
廊下に出て自分の部屋に戻るために歩みを進める。１部の部屋を除いて電気が消されており、カルデア内は真っ暗だった。
夜、無意識、移動。こう聞くと夢遊病のように思うかもしれないが夢遊病のようなそんな簡単なものではない。原因は分かっている。無意識的に右手に握っていたものをじっと見つめた。
「…こんなこともうやめようよ」
そんなことを呟いてみても誰が言葉を返してくれるわけではない。だってその言葉を送るべき相手は自身の心の中にいるのだから。
「シュルタキールティ」
義兄弟の名前を呼ぶ。返答はない。きっとこう声をかけたってこの行為について彼は簡単には答えてくれないだろうし、無理やり話させたって私は満足な回答を得ることもできないのだろう。被害者ぶってもあの出来事も結末も何も変わりはしないのだから。奇跡に願う他何もできやしないのだから。こんなことをしたって無意味だということも彼はきっと分かっているだろうに。
苦しいね。私もきみも。
いっそ私が吹っ切れたように復讐に身を寄せればいいのかな。きみはとても優しい人だったから、復讐のクラスに当てはめられた今の私を悲しく思っているのかもしれないね。でもそれはできないんだ。ごめんって謝るしかないかな。
きっとそれができる私は、真に彼らやこの世界の理不尽に絶望した私だろうから。
私はまだ絶望しちゃいないさ。父上にラーマ様にパールヴァティー様、そしてシロウくんに女神様がここにはいる。なによりもマスターが私を信頼している。ここにいる限り私は絶対に落ちない。堕ちるものか。
自分の部屋に戻りベッドに倒れ込む。脱力。体から力を抜く。右手の方向からカラン、と何かが落ちた音が聞こえた。一瞬視線をそちらに向けたが、それは先ほどまで握っていたものだったのでさして気にすることもなくそのまま瞼を閉じた。
床に落ちているナイフは、まだ汚れを知らないというような輝きを放っていた。
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影印 - Ayakaさん» コメントありがとうございます。自分の中では最近ギャグ寄りの話が多いけど大丈夫かな…と結構心配になっていたのでその言葉がとても嬉しいです。 (2021年6月26日 15時) (
レス) id: 2648135176 (このIDを非表示/違反報告)
Ayaka(プロフ) - 面白いです。続きも頑張ってください！楽しみにしてます。 (2021年6月22日 19時) (レス) id: f23d5c420b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：影印 | 作成日時：2021年5月22日 12時
