【梶井基次郎】死んじゃえばいいのに！

陸 ページ5

矢張りAが気に掛かって、
帰路、薬局で頭痛薬を買ってしまった。


ビニール製の袋に入れられた頭痛薬。


瓶の中の薬を飲みさえすれば直ぐ治る。
家の扉の前で立ち止まる。


此れを開けたら、
二人の温もりのある声が聞こえる。


お帰りなさい、
おかえり。




二人の元気な声、
何時も聞こえる二人の声。





「ただいま、」

ガチャ




然し二人の声は聞こえない。

寝てるのかな、
でも今日は仕事が早く終わったはずだし。


玄関の靴箱上に置かれた時計を見て時間を確かめる。

午後19:48.
流石に起きていると思う。



じゃあ、此の前みたいに映画を見ているのかも。




やけに心臓の音が大きく聞こえてくる。





廊下をゆっくり歩く。



何だか胸騒ぎがして、
でもそんな訳無いって自分に言い聞かせる。


ダイニングの食卓にはご飯が用意されている。
…あ、リビングに居るのかな。


廊下の奥はダイニングしか見えないから、
…そうだ。




「ただいま、」




もう一度言い直した。



其の声が部屋に響いた。



そんな僕の瞳に映りこんだ光景は凄惨な物だった。









＿＿＿＿血塗られた二人の死体だった。

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