第8話 ページ9
もしお別れだとわかっていたらもっと早くに、今までにたくさん良くしてもらった事や最大限の感謝を伝えたかったし、恩返しをしたかった。
また視界が滲んで、目が潤んでくる。どうして自分はこんなにも弱いんだろう。誰かにいつも助けてもらってばかりで、お礼をする時間すらなくて。
俯いて、なんとか気持ちを整理させようと息を整えていると、足元にサッカーボールが転がってきた。
少し顔を上げると、このオレンジ色の空と同じ髪色をした少年が立っていた。目が合うとニコリと微笑んだ彼は、私の隣に腰掛けた。
「どうしたの？」
『いえ…なんでも…』
「そう？辛そうな顔してたからさ。僕でよければ話聞くよ」
――少しは吐けば、楽になれるだろうか。
喋り出したらもう止められないと思った。でもこうして優しくされたら誰かに話を聞いてもらいたくなってしまった。聞いてもらってもいいんだろうか。彼の目を見つめると眩しい笑顔をもう一度見せてくれた。
少しずつ呟くように言葉を散りばめていく。
『……実は、両親ともう会えないくらい遠くに来ちゃって…』
うん、うんと相槌を打ちながら最後まで聞いてくれた。異世界の事は伏せつつ、喋っているうちに思考は冷静になっていって、涙は収まっていた。
『……ということなんです。ごめんなさい、長く聞いてもらって…』
「ううん、全然。まぁー…遠くに居て心配してると思うし寂しいけど、君が幸せで過ごすことが両親にとっての一番の幸せだと思うよ」
ありきたりな言葉だけどね。と少し照れくさそうに言った彼の気遣いに、また涙が溢れかえった。きっとあの人達ならそう言うだろう、と想像できる言葉だったから。少し救われたような気持ちになった。
また泣き始めた私を見た彼はギョッとして、背中を撫でてくれながら慌てたように言葉を付け加える。
「ほら、会えないって決まったわけじゃないと思うから！もしかしたら会える方法があるかもしれないよ！」
『うん、うん…探してみる…』
ありがとうと言って、久しぶりに笑えることができた。
先ほど彼がしてくれたように微笑み返すと、彼の顔が少し赤くなったような気がするのはきっと、さっきよりも赤くなった夕日の光の所為なのだと決めつけて涙を拭って、もう一度笑ってみせた。
私も、目の前の彼のように優しくありたいと強く思った。
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作者名：アスター | 作成日時：2022年8月8日 17時
