第1話 ページ2
『いってきまーす!』
「気をつけていってきてね、A」
新しいスカートの制服姿を嬉しそうに見つめる母を背に、元気に玄関から飛び出した。
暖かい春の季節。ピンク色の花びらが、そよ風と優しく踊っている。私は木漏れ日の先にある大空を見上げながら、通学路をゆっくりと歩いていた。
私は新しい土地にやってきた。
親が転勤族で、小学生の頃は長く同じ土地に留まっても一年、短くて三ヶ月だった転校生のベテランだ。それでも、知らない人だらけの教室に入るのは何度経験しても慣れない。今回も緊張しそうだ。
なるべく早い時間に登校して、入学式が始まる前に校内を見回りたいと思っていたのだけど…。
思ってた以上に早朝に登校してる人が多いし、なんだか、コソコソと見られている気がする。その原因はすぐに分かり、はぁ、とため息をついて、カーブミラーに反射する自分を見つめた。
明るい金髪は、陽の光に照らされて強い光彩を放っている。ラピスラズリのような、不思議な色彩の目。黒髪黒目が多い日本では、とても目立つ組み合わせの色だ。
中学の制服を着ていたら、一層目立ってしまう。この人目を引く色のせいで何度も馴染めなくて苦労したけれど、変えれない物に文句を言っても仕方がない。
今度の学校こそは、友達を作るぞ…!! そう意気込んで心の中でガッツポーズをし、 再び歩き出した時に事件は起きた。
「いたぞ!捕まえろ!」
『え』
誰かの声と同時に、複数人の走る足音が背後から聞こえてきた。
後ろを振り返ると、遠くから黒スーツにサングラスの団体が私を目がけて追ってきている…ように見えた。
…見間違えかな?き、気のせいかも知れないし!試しに運動がてらに走ってみよう。
背伸びをし、よっこいしょと言いながら軽く走ってみたところで、群衆の一人が「あっ」と声を上げる。
「逃げたぞ!逃すな!」
『や、やっぱ追いかけてきてるぅぅう!!』
危険を察知すると同時に、全速力で逃げの態勢に入った。
怖い怖い怖い。
なんで!?私何かした!?特に悪いことをした覚えはないんですけど!!逃走中をしている様な絵面だけど、ゲームに参加した覚えもないんだけど!?
恐怖で涙が出そうになって、震える声を必死に絞り出す。
『だ、誰か助けてーー!』
情けない声が響き渡る中、私は住宅街を全力で駆け抜けていった。
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作者名:アスター | 作成日時:2022年8月8日 17時