69 「…あいわかった」 ページ19
……
こめかみに、どくんと、激しく脈打つ拍動がした。あたしの言葉のあとで、何も言葉を発さずあたしをただ見つめる三日月様を、あたしもじっと見返していた。
馬鹿なことを言っているのは分かっている。馬鹿だと思われてるだろう。甘過ぎると。何言ってんだこいつと。実際後ろのスピーカーの大量の声の中からそう言ってる言葉も聞き取れる。分かってる。そう言われることも。だってあたしだって自分にそう思うんだから。自分のやるべきことは、あのおじさんの言ってたことで間違いじゃないってことも。一方的に消されるこんのすけさんや五虎退さん達を背に、自分だけ助かる。そうすべきなんだと。でも、絶対そうしたくない。絶対嫌だ。
(出来ない)
三日月様を刀解して、やっと用意されるそのゲートをくぐった先、あたしに待ってるのは、展望の見えない帰り方を、他人に任せて待ち続ける不安と、背後に置いていって抹消された、この本丸の彼らに何も出来なかった自分へのでかすぎる罪悪感との戦いだ。
どの道八方塞がりなんだ。帰れないかもなんて、この世界に来て、最初からそうなんだ。どの道あたしは、この世界で果てしなく無力だ。
(だったら出来ること、出来るだけ、やるしかないじゃん)
彼らはこんなに傷だらけで、あたしを警戒して、怯えて、恨んでいるけど、少しやり取りをするだけで分かるぐらいに、本当に、本当に優しい。
五虎退さんは、自分じゃなくてみんなを、さきに、と言った。そして彼を、大事に大事に抱えてあたしに、お願いしますと、土下座していた、他でも無いお兄さんの一期一振もいる。
…あたしにも、元の世界に、弟がいた。
自分よりも誰かのことを考えてる彼らが、これ以上他人のめちゃめちゃな行動や言動に振り回されて、最後に殺されるなんて、そんなの絶対、駄目だ。
(あたしの、決断で)
あたしを厳しく見つめ続けていた三日月様が、その場で、すっと立ち上がった。
「…あいわかった」
その、返事と。
静かに、ゆるやかに、見上げるあたしへ視線を落とすその綺麗な顔に、微笑みが戻っていく。
「五虎退に、本格的な世話をしなければならんのだろう。…分かった。最後まで、そなたを守る」
「!」
「三日月殿、」
こんのすけさんが安堵した声で名を呼んだ。
「、」
でも、睫毛を伏せ、ゆっくり瞬いた三日月様の顔があまりに切なくて、どうしてそんな顔をするのか…その悲しみの深さが分からなくて、あたしは押し黙った。
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鳥(プロフ) - 読者様 一つ一つにお返し出来ずすみません!コメントありがとうございます!(三)についてですが、推敲が終わったところから随時公開しております!またお時間空いたり思い出して頂けた時に読んでもらえたら嬉しいです。遅筆ですが楽しんで書いております (7月7日 10時) (レス) id: 4bf57b87a0 (このIDを非表示/違反報告)
yura(プロフ) - 初めまして!一気に見させていただきました。とても面白いです!そして続きが気になります。パスワードおしえていただけないでしょうか? (6月18日 13時) (レス) @page50 id: 673a00a1b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユナ@前垢消えた(プロフ) - 続き楽しみにしてます!!!!! (2023年4月28日 13時) (レス) @page50 id: 0e552ce067 (このIDを非表示/違反報告)
テオ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。ここまで読ませていただき本当に面白いと感じました。表現の仕方がとても好きでストーリーも最高です。推敲が終わるのをとても楽しみにしています。無理のない程度で頑張ってください💪 (2023年4月27日 14時) (レス) id: 85b09c3093 (このIDを非表示/違反報告)
クロ - 始めまして!クロです凄く面白くて続きが気になるのでパスワード教えてくださいm(._.)m (2023年3月30日 1時) (レス) @page50 id: 16daf975b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鳥 | 作成日時:2020年2月24日 20時