刀剣乱舞 -私はブラック審神者らしい- (二)

64 (ぼきん、) ページ14

「………、！！」

そのカオを見て、とうとう、じわ、と涙が滲んだ。理由は分からない。ただもう駄目だった。

あたしは、本当に、何て所に来てしまったんだろう。あたしが何で、こんな目に遭わなきゃいけないんだろう。彼らは何で、こんな風に、何で、こうまでされなきゃいけなかったんだろう。わからない何も、わからない、

五虎退さんの、髪で隠れてない方の目が、ない。ほんとうにむりだ。あたし、もうだめだ、

くりぬかれたみたいに赤黒くなった目がある筈のそこから、涙みたいに血が垂れて、髪に隠れた半分の顔が彷徨うようにふらふらと揺れている。


「あるじさま、僕、」


口元の手にぼたぼたと冷たい涙が伝って濡れた。
ぎゅうっと目をつぶって、両手で口を押さえつけた。

腹の辺りが馬鹿みたいにうねっている。
やばい、吐く、きもちわるい、



「僕より…、みん、なを、」



三日月様が、ばっと急にあたしを見た。



「み、んなを、いちに、いを、先に…、」



口内に胃液の味が広がった。まずい、やばい、



「ど、うか、なおし、て」



(無理だ)



ぼきん、とあたしの胸の中で何かが折れる音がして、体が痙攣するみたいに震えた。自分でも自分の体に何が起こってるのか把握出来なくてただただ冷や汗が溢れんばかりに出てくる。

上半身ごと体を半分に折って、縮こまる。
怖い。無理だ。無理だむりむりむりむりむりむり


｢！まずい…っ！主様、お鎮まりに…！！｣


こんのすけさんがあたしの横へ駆けてきた。言われてる言葉が全然分からない、ただ体が、体が震える、


背後、電話向こうの場所で何かが、けたたましくピピピピピ！！！と警告音を発してる。
｢通信相手の霊力が急速に膨張！！！｣
｢暴走の可能性！！｣｢第1回線オーバー！！｣
｢こ、これは…っ見たことの無い数値です！！｣



心臓が爆発しそうだ、内蔵の真ん中から何かがあたしの皮膚を突き破ろうとしてるみたいだ、なに

なにこれなに、なにこれ…！！





｢主｣





何が起きたか理解出来なかった。


視界が、三日月様のあの青色の装束の模様でいっぱいになっている。後頭部に添えられた手が、わけがわからないぐらい優しくあたしの頭を撫でている。桜の匂いがする。三日月様が、あたしを、え

あたし、三日月様に、抱きしめられ



｢主｣



耳元で繰り返し、そっと呼ばれるその言葉に、何故か涙が止まらなかった。


三日月様が、あたしのことを「主」って呼んだ。そなた、じゃなく、主と。

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