涙が146こ ページ17
-美 Side-
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「……はぁ…。」
怠い重い体を引き摺りながら、一息。
あれから尋に新しい任務を与えられた自分は、身なりを整え、家とも呼べない冷たいあの“施設”の門をくぐった。
「…彼奴ら…どうしてるんだろうか…。」
総悟は目覚めたんだろうか。
近藤は、きっと喜ぶだろうし…。
土方は……、アイツは素直じゃないからなァ…。
少しずつ色付く木々を見上げながら、ふと思う。
詰襟の黒い隊服を整えながら、自分の口角が少し上がっていた事に気付いた。
…この瞬間だけ…彼らの事を考える一時だけが、私にとっては一つの安息。尋から付けられた傷の痛みさえ気にならなかった。
しかし、背後からかかった冷たい声に、私の思いは一気に冷え込んだ。
?「…隊長。」
振り返れば、自分と同じ様な洋装に身を包んだ男が一人。
「…何、ハヤテ。」
“ハヤテ”…−−−−−−−−私がそう呼んだ彼は、自分の随分と冷徹な声に少し怖気づいたらしい。
ハヤテ「ッ…あの…、尋様から、伝言です…。」
途切れ途切れにそう伝える彼を一瞥し、伸ばしてきた手の先にある白い紙を引っ手繰る。
「(…アイツからの伝言なんて、嫌味しかないだろ。)」
そう眉間に皺を寄せながら、片手間に小さな紙を広げ、見つめる。
と、そこには案の定。
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《お前は犬、俺は飼い主。それをよく覚えておくんだな、不良品。》
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妙に綺麗な字で、そう冷酷に伝えてきたコイツ。
「…ちっ。」
一つ舌打ちをし、その純白の一枚を手で握り潰しては、投げ捨てた。
きっと今頃アイツは、何処かで私のこんな姿を見て嘲笑ってでもいるんだろう。
私はアイツに逆らえない…そう知っているから。
それが悔しくて、哀しくて、弱い自分が憎い。
でも、もう今頃遅いんだろう、こんな後悔なんて…。
「…今はただ、彼奴らを護る為に…。」
そう、全ては大切な彼らを護る為の“強がり”。
「…行くぞ。」
背後の影達に声を掛け、私達は地を蹴った。
季節は《秋》
“あの人”が居なくなった、哀しい季節。
風は随分、冷たかった。
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(道標の無い)
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知念菜々(プロフ) - 素敵な小説ですね、思わず泣いてしまいました(笑)これからも頑張ってくださいね (2019年4月26日 12時) (レス) id: 70738b0893 (このIDを非表示/違反報告)
チョコ - とても素敵な小説ですね・・・!感動しました。( i _ i )主人公や沖田や銀さんの想いが切実に伝わってきました。更新楽しみにしております。頑張ってください! (2016年1月24日 22時) (レス) id: 8fa45dd2aa (このIDを非表示/違反報告)
みかんのポン酢 - 更新楽しみに待ってます!!シリアス好きにとっては美味しい(?)小説ですねwww応援してます! (2015年12月30日 12時) (レス) id: a0bf40ef9d (このIDを非表示/違反報告)
クロゥ - 主人公が何もかも背負っているのを見てる沖田と土方と銀さんなどの気持ちと主人公の気持ちを考えて何度も号泣してしまいました。これからの話も気になるので続き楽しみにしています!お身体に気お付けてください!次の更新楽しみにしています! (2015年10月5日 0時) (レス) id: 076214571a (このIDを非表示/違反報告)
夜桜 - 主人公が何でも背負い込む所が辛そうで何度も泣いてしまいました。続き、とても気になります更新頑張って下さい! (2015年8月27日 21時) (レス) id: 26fe401622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柊 x他1人 | 作成日時:2015年5月26日 23時