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1ファン【不二周助】 ページ8

『あ、…』



あと少しでも、彼に近づきたい。

沢山の人混みの中でもがくように前へ進む。

真ん中にいる彼を目指して、進んでは押し返される。

たった一つ、言いたい言葉があるだけなのに。

握り締めた贈り物はグシャッと音をたてて原型を無くした。



『しゅー、すけ君っ…』



叫ぶようにその名を読んでも彼は振り返らない。

悲しいと思うのは私だけじゃないんだろうから、泣くわけにはいかない。

今まで特等席で彼を見てきた。







“彼女”


その居場所は心地好かった。

余りにも気持ちの好い場所で私は私を忘れてた。

ただの1ファンだった私にどうして彼がその場所をくれたのかは私は知らない。

ただの気紛れだったのね。

もし違うなら、余計に苦しい。




『ねぇ…大好き』




過ぎ去っていった彼との過去を一瞥するみたいに。

一人になってから呟いたけど、自分でも聞こえないくらいに小さかった。

私に飽きたのか、嫌になったのか、私に直せるところがあったのなら教えて。

直せるかは分かんないけど頑張るから。





『私はぁ…』




君が好きなんだと。

その一言を彼に伝えたことは何度くらいあっただろお。

多分、一回だけ。

初めて彼に会った日の思い出。

一人哀しげな表情でテニスの練習をしてた。

あぁ彼は、こんな風に頑張るんだ。

ただの傍観者からただの1ファンに変わった瞬間だった。



『好き』



そっと呟いたその言葉は彼に届いた。




フェンスの向こうの彼が振り向いたのが夢だったら。

彼への言葉が届いたのが夢だったら。

叫んでも振り返らない彼が夢だったら。




『良かったのに』




テニスコートの中に勝手に入った。

広くて、彼がいた場所から私がいた場所を眺める。

とても私の声が聞こえるとは思えない。

私がいた場所まで鈍い足でパタパタと走った。

フェンスの外から、いつも見ていたそこに彼はいない。

俯いてしまう。

またパタパタと走って彼のいた場所へと戻る。

いっつも彼がどんな風にしてたか分からない。

ああだったっけ?こうだったっけ?と思い出しながら身振り手振りする。

じょーずとはお世辞にも言えないけど、優しく包み込んでくれる思い出。

それが、哀しくなった。









「大、好き」



聞こえた声に私は振り返らない。

明日も生きていたいから。

また希望に押し潰されたくないの。

君の気紛れじゃ嫌。

ただの1ファンでもいい。

飽きられるのより。

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Le-ca(プロフ) - あぷりこっと☆さん» それ分かりますよ!結ばれない切なさって良いですよね。まぁ甘い系苦手なので逃げ口ですけどね(-.-) (2019年10月15日 18時) (レス) id: 0ae78945e9 (このIDを非表示/違反報告)
あぷりこっと☆(プロフ) - Le-caさん» ななななんと!そうでありましたか…!そんな感じは微塵もしませんでした!私こそ本当に甘いのは苦手で…。というか、話自体、結ばれるより、結ばれない方が好きなんですけど笑 (2019年10月15日 18時) (レス) id: 280df3197c (このIDを非表示/違反報告)
Le-ca(プロフ) - あぷりこっと☆さん» ありがとう!私切ない系は書ける←けど甘い系とか苦手なんだよね。 (2019年10月15日 17時) (レス) id: 0ae78945e9 (このIDを非表示/違反報告)
あぷりこっと☆(プロフ) - 新作読ませていただきました!切ないですね…!こういうの大好きです! (2019年10月14日 23時) (レス) id: 280df3197c (このIDを非表示/違反報告)
Le-ca(プロフ) - あぷりこっと☆さん» コメントありがとうございます!これからも更新頑張っていこうと思います! (2019年9月19日 21時) (レス) id: 0ae78945e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Le-ca | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kaduki714/http://  
作成日時:2019年9月16日 14時

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