最後の雨

７ ページ7

.

玄関で俺を見送ってくれる彼女。



「服、乾かなかったね。」



少し湿ったままの俺の服が入った紙袋。

いつもならまた来るから、と置いていくはずなのに
ああ、本当にこれで終わりなのか、と思う。


自分のことなのにどこか他人のことのようで、
夢なのか現実なのかも分からなくなってくる。


すごく悲しいはずなのに涙なんて出てこなくて

本当に悲しいときほど涙って出ないものなのかな、とか
この紙袋を置いていったらまたAに会えるのかな、とか
どこで間違えたんだろう、とか

ぐるぐる ぐるぐる、いろんなことを考えた。



「ゆうたくんたちなら絶対有名になれる。
　日本だって獲れるよ。」


「いっぱい幸せをくれて有難う。


　大好きだよ。」



別れ際、控えめに抱き着いてきた彼女。

本当に狡い。

抱きしめ返してしまったら、いよいよ離せなくなりそうでできなかった。




艶やかな髪にキスだけ落として外に出ると
雨はまだ降り続いていた。


視界が少しずつぼやけてきて、自分が泣いていることに気付く。

さっき涙は出てこなかったくせに、ここでかよ。

なんて心の中で悪態をついてみるけど、
彼女の前で泣かなくてよかったなとも思う。



Aは別れ際、私のことなんて忘れて、と言ったけど

本気で忘れるくらいなら、涙が出るほど愛したりしない。

俺以外の他の誰にもAを渡したくない。


誰かに盗られてしまうのなら、
強く、強く抱いて壊してしまいたい。

８→←６

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す