交錯する線 part 2 【Kento】 (ページ48)

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いつもの通勤する道路から一本入ったところにその店はあった。
小綺麗な大衆居酒屋という印象だ。

中に入ると店員さんが何名様ですか？と聞いてきた。

「先に1人来てると思うんですけど…」と言うと、
お連れ様ですね、かしこまりました、とハキハキ案内してくれる。

週始めにも関わらず、店内のテーブルはほぼ埋まっている。
静か過ぎない喧騒がちょうど良い。

細い廊下を少し行ったところで、扉をスライドさせて、こちらですと小部屋へ案内してくれた。

扉を開けた先には約束通り菊池さんが待っていた。

扉が閉まる。
お客さんたちの話し声が聞こえなくなった。

彼が「おつかれー」と言う。

私もお疲れ様です、と言い彼の前に座った。

「Aちゃん飲む？」

「いえ、飲まないです」

だよねー、明日もお仕事だもんね。ウーロン茶でいい？とメニューを渡しながら言ってくる。

「ここお昼に食べるような定食が夜も食べれんの。
俺は唐揚げ定食にしようかなー。
Aちゃんは何にする？」

「えっと、じゃあ私は和風ハンバーグ定食にします」

「りょうかい」

オーダーがすんなり済む。

最近こういうことがありすぎて私の感覚がおかしくなったのか、意外とバレないものなのかな、などと思っていると

「普通にしとけばこんなもんよ」

私の考えを見透かしたように彼が言った。

「それより今日はごめんね？遅くまで仕事させちゃって」とまた彼が謝ってきた。

「ほんとに気にしないで下さい。こういうことはたまにあるので、それでお詫びされてたら大変なことになっちゃいます」

「失礼しまーす、ウーロン茶でーす」と扉が開く。

店員さんが去ると
「そっか、ありがと」と会話を再開させながら、
私にウーロン茶を渡してきた。

「とりあえず乾杯しよっか。
仕事お疲れさまってことで」

「はい」

「んじゃ、かんぱーい」

と特に高くもないテンションで乾杯を言いながらグラスをコツンとぶつけてきた。

「で？どうだった？お宅訪問は？」

ウーロン茶を煽りグラスを置くと彼はそう切り出した。