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思わずふふと笑ってしまう。
「どうしたの?」
「いえ、風磨君と同じだなって思って」
「え?菊池?」不思議そうに聞いてくる。
「実は風磨君にもファンだってバレてしまって。
その時も中島さんと同じように握手してくれたんです。さすがシンメはやることも同じですね」
中島さんは急に沈黙したかと思うと
「きゃ」
突然、握手していた手をぐっと強く引いた。
そのまま彼の胸にぶつかるように抱きしめられる。
「な、中島さん?!急にどうしたんですか?」
急展開にさすがに焦る。
やはり薔薇の香りだった。
目の前の彼から薫るその香りに包まれ鼓動が早くなっていく。
中島さんが口を開いた。
「なに菊池に懐柔されてんの」
今までに聞いたことのない低い声が耳に響いた。
「A」
耳元で呼ばれる。
「あんまり嫉妬させないで」
「A?」
今度は優しく呼ばれる。
もうコクコクと頷くことしかできない。
彼が少し体を離して私の頬に手を触れてくる。
顔を上に向けられ視線が絡み合う。
「ほんとに…その顔だよ。自覚ないの?可愛い」
「まじで誰にも見せないで」
とつとつと語りかけられた。
穏やかな語り口なのに、嗜虐的な響きを感じて体が強張った。
「そんな固くならないで。
Aの嫌がることはしないよ」
私はまたコクコクと頷くのみ。
不敵に笑いながら彼の手が頬から離れた。
「コーヒー少し冷めちゃったかも。お茶しよう?」
彼はソファまで私の手を引いた。
ボニータは空気を読んだかのように、自分の寝床に戻ってうとうとしている。
窓からは西日が差し込んでいた。
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作者名:にこ | 作成日時:2021年9月25日 22時