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「俺のことはミツって呼んでよ。」
「え。」

思いたったように先輩はそう言った。

「ミツ…先輩?」
「うん。」

名前を呼ぶと先輩は優しく微笑んだ。
何をそんなに喜ぶことがあるのだろうか。

「先輩って言ってくれるんだね。」
「え、あぁ、さん付けの方が良かったですか。」

顔を伺うようにそう言うと、先輩はきょとんとした。
そして数秒たってから、クスリと笑った。

「ううん。違うの。先輩って呼ばれることあんまりないから嬉しかっただけ。」
「なんすかそれ。」

確かに部活なんかで後輩に初めて先輩と呼ばれた時は俺だって嬉しかった。
けれどそんなにも嬉しいだろうか。
小さなことで喜べる先輩が少し可愛く思えてしまった。

「たまは家どこなの。」
「駅の手前です。ミツ先輩は?」
「俺はこっから2駅行ったとこ。」
「じゃあ駅まで送っていきます。」
「え?」

何に引っかかったのか、先輩はまたきょとんとした顔で俺を見る。
くりっとした目で長い間見つめられると、勘違いしてしまいそうになる。
俺も先輩も男だけれど。

「嫌でしたか?」

先輩に問いかけると、先輩は我に返ったのかハットした顔をしてから、表情を隠すように両手で顔を覆った。

「ううん。優しいなって。」
「そんなにですか?」

先輩の耳を見てみれば、真っ赤に染まっている。
そんなにも恥ずかしがることだろうか。

「だって、普通ただの先輩にそんなことしないよ。」

先輩の言葉に、確かにそうだなと心で呟いた。
よく考えれば先輩は年上だしなにより男だ。
女の子なら送るかもしれないけど、男は普通送らないよな。
それも男が男送るっていうのは特殊か。
考えていると、自分の発言が少し恥ずかしくなって、先輩と目を合わせづらくなった。

「でも先輩、小さくて危なっかしそうなんで…」
「小さくないよ…」

地雷だったのか、先輩は少し顔を顰めた。
男にとって小さいはタブーだったか。

「そうっすね。」

笑みを含みながらそう言うと、先輩は拗ねたように頬を少し膨らましながら駅へと向かった。
気さくな先輩に少し安堵した。
バイト先では藤ヶ谷以外とは壁があるように見えていたけれど、壁を作っていたのはこちらなのかもしれない。

「何分のやつ乗るんですか。」

駅の改札前に着くと、先輩は少し目を細めて電子掲示板をみた。

「あと7分後のやつだな。」

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作者名:?? ? ますだ とちおとめ | 作成日時:2018年7月11日 2時

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