三十九話 ページ6
「ここだ。ここでてめぇは生活してる。」
左馬刻は、普段Aがいる自分の部屋に連れて来た。
「は？…おい、ここってヤクザの事務所か？」
辺りを見回し、戸惑った様子でAが聞いた。
高級感のある椅子に、刀、金庫、そして左馬刻の持つ雰囲気。
一通りを確認し、Aは左馬刻が答えるより先にもう一度聞いた。
「ここはヤクザの事務所で、あんたはヤクザか？」
今度はじっと、左馬刻の目を見据えて。
「おや、言い忘れていましたね。すみません。ここはヤクザの事務所で、彼はここの若頭です。ああでも、貴方は組員ではありませんよ。ここに住んでただけです。」
「…なんか文句あんのか？」
銃兎の説明を受けてもなお、納得がいかないという顔のA。
「あるに決まってるだろ。…この俺が、この世で一番ヤクザって人種を恨んでるこの俺が、ヤクザに世話になってるなんて。そんなこと、あるはずがねぇ。」
Aはひどく動揺した様子で続けた。
「やっぱあんたら嘘ついてたんだろ。あのマイクとやらもどうせ、なんか仕掛けが…、」
「ちょっと、いきなりどうしたんですか。さっきは信じるといってましたよね。それにマイクのことは、貴方も身を持って体験したでしょう。少し落ち着いて、話を聞かせて下さい。」
銃兎がそう言うとAは少し落ち着いて、言った。
「…俺の父さんはヤクザの男に殺されたんだ。まだ俺が小学生の頃に。ただの善良な警察官だった父さんは、くだらねえ理由でヤクザに…、」
思ってもみなかったAの過去に、二人は言葉が出なかった。
「兎に角、俺がここで世話になるなんて考えらんねぇ。こんなとこ、一秒だって居たくない。」
そう言ってAは部屋を出ていってしまった。
「左馬刻、」
追いかけるぞ、と言おうとしたが、左馬刻が追っても逆効果だ。
「左馬刻、俺が行ってくる。」
「…。」
＿＿＿＿＿＿
「Aさん、待って下さい！」
Aは既に事務所の外にいた。
「Aさん！」
やっと追いついた銃兎がAの腕を掴む。
「なんだよ、手ぇ離せ。」
「これからどうするつもりなんですか。」
「家に帰る。母さんに連絡してからって思ったんだけどこのスマホ、ロックかかってて使えねぇ。しょうがねぇから帰るんだよ。」
それもそのはず。Aは一人り暮らしを初めてから、その地域の郵便番号の下四桁を暗証番号にしていた。
17歳のAには、知る由もない番号だ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 256人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「逆ハー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
沙悟浄(プロフ) - ムムさん» そう言ってもらえると嬉しいです。とても励みになりました！ありがとうこざいます。 (2021年4月29日 13時) (
レス) id: a53696e285 (このIDを非表示/違反報告)
ムム - 面白すぎましたけど、 (2021年4月17日 23時) (レス) id: ec0741b59c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：沙悟浄 | 作成日時：2020年12月31日 15時
