それはまるで魔法のように【５】 (ページ5)

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＊就職活動＊ページ5

You side

『懐かしいなあ』

30「何が？」

遠征先のバス車内。窓側の席に座って外を見ていると、街中には真っ黒なリクルートスーツを着て、ピカピカのこれまた真っ黒な革靴やパンプスを履いて、黒染めしたであろう少しだけ違和感のある真っ黒な髪の毛の就活生がちらほら。

『陽平さんって就活したことありますか？』

30「あの、A？俺ね、一応プロ野球選手」

あ、そっか。ドラフト会議で日本ハムに選ばれたんですもんね。いいなあ、選ばれる側は。あの時、必死だったなあ。とボヤくと、就活って何やるの？と質問される。

『私は公務員試験だったので、めっちゃ勉強して、面接対策して、体力錬成しましたね。』

30「テレビとかで何社も受けるって聞いたけど、本当にそんなに受けるの？」

『受ける人はめっちゃ受けますよ』

私の場合は高校で就職する人が少なかったので、周りに影響されることはそんなになかったんですけど、大学生とかの就活は心身ともにボロボロやと思います。と答えると、あんまり興味が無いのか、ふーん。と返ってくる。

『周りは大学に推薦で行ける！とか専門学校決まった！とかで、どんどん進路が決まる中で、すっごい不安やったんですよ』

１５官公署受験して、全然受からんくて。このまま就職浪人してしまうん？とか、めっちゃ色々考えて精神的にヤバかったです。最終的には消防から内定貰ったんで、良かったんですけど。と就活生をバスの中から見て話す。

30「でも結果的に就職できたんでしょ」

『まあ、そうですけど。就活やってて、思ったんは、周りに流されたらあかんな。あれ、大阪のおかんスタイル。よそはよそ、うちはうち。って感じで自分をしっかり持たなあかんって学びましたね。』

30「何かA、大人だね」

『そんな事は無いですよ』

陽平さんも１回くらい就活した方がええですよ。と言うと、は？野球辞めろってか？と少しだけ不機嫌な返事。

『人生経験としてですよ。そんな本気で言うてるわけないやないですか』

30「Aの冗談、声のトーンがガチだから、わかりにくい」

信号待ちして鞄から手帳を取り出して予定を確認している就活生を見て、努力は絶対に報われる。周りに流されずに自分をしっかり持って頑張れ！と心の中でエールを送るとともに、自分自身も初心を思い返す。

『木の長きを求むる者は必ず根本を固くす』

30「え？何？」

『何でもないですー』

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