口説かないで下さい 3 【三途春千夜】

足りない覚悟を許してくれる人 ページ12

春 「あー。とりあえず落ち着け。
俺は無事だから、まずシャワーでも浴びて来い。
……よっ、と。」





『ちょっ、春千夜、
ねぇ、待ってよ、説明して。』





春 「ちゃんと説明してやる。
けど、お前今日仕事だろ？休むか？」





私を軽々と抱きかかえた春千夜は、
浴室に向かいながらそう言った。
あまりの衝撃で忘れてたけど確かに仕事だ。
しかも人事交流から戻りたてな上に、忙しいから休みにくい。
でも。





『場合によっては休む。
だって……、
放っておけるわけないじゃない。』





大切な人が大怪我してるかもしれないのに、
仕事なんて行ってられない。
涙を滲ませ、はっきりそう言った私に、
さすがの春千夜も観念したらしい。
洗面所まで連れてこられたが、
説明を先にしてくれそうだ。
私を降ろすと、頭を掻きながら溜息をついた。





春 「裏切り者が出たんだよ。
ソイツらの始末をな。
だから、あれは俺の血じゃない。
……返り血だ。」





始末って、つまり、春千夜はさっきまで人を……。
春千夜の仕事について聞いてはいたはずなのに、
その現場を見たわけでもないのに、
間接的に付いてしまった返り血だけで、
反社の一面を目の当たりにして身体が震えた。





『じゃあ……、春千夜は怪我してない……？』





春 「あぁ、してねぇ。
……お前、もう今日は着替えて帰れ。
血の気引いて、死にそうな顔してる。
俺が、怖いだろ？」





『ち、ちが……、』





春 「別に責めてねぇよ。
当たり前だ。
お前は普通の一般人なんだからな。」





『春千夜、待って。
大丈夫……、だから。離れたくな…、』





春千夜はどこか諦めたような、悲しい笑顔でそう言った。
さっきとは違う胸の痛みで、冷汗をかくほどに鼓動が激しくなる。
え……、お願い、待って。





確かに一瞬怖いとは、思ってしまった。
仕事の話を聞いても、好きだから一緒にいるって決めたのに、
怖いと思ったことが顔に出て、
きっと傷つけちゃったんだ。
でも、離れたいわけじゃない。
お願い、突き放さないで……、そう思った時、





春 「でも、
俺はお前をもう逃してやれねぇぞ？」





『えっ……？』





ぎゅっと抱き締められ、
迷いのない声でそう言われた。





春 「んだよ、マヌケな顔しやがって。
俺はこの仕事を辞められねぇし、
お前を離す気もねぇ。
だから、慣れろ。別に時間はかかってもいい。
お前を守ることは出来ても、
そっちは俺にはどうしようもねぇ。』

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