くるいづき

すこしずつ 康平 ページ19

『あのさ…康平』


「うん」


『ちょっと、近い…かな』


「うん」


『ちゃんと聞いてる？』


「聞いてる」


それなら少し離れてほしいのですが…


彼はマイペースで頑固な面もある為か


何回か注意しても聞く様子はない


付き合って少し経つし


こうしてくっつくのは嫌いではないけど…


「テレビなんて、いつでも見れるだろ」


『わ、分かったから！近いよ…』


耳元で話す彼の意見に従い後ろから私を包囲する


腕を解放してもらう


恋愛に全く興味がなさそうな彼だけど


ふたりきりになると案外そうでもなく、


意外な積極さに私はいつも振り回されているのだ。





「…Aは、俺のこと嫌いなのかよ」


『え…？』


また突然何を言い出したのかと思えば…


『どうしたの、急に』


「だって、俺が近づくと逃げるだろ」


「連絡は俺からのことが多いし、ふたりきりの


時だってなんだか俺を避けてるみたいで。」


「…一緒にいるのが嫌なら、そう言え」


そう細々と話す、酷く傷ついた顔をした康平がいた





私、なんて悪いことしちゃったんだろう。


康平はいつも私のことを思って行動してくれて


嫌がること何ひとつとしてしなかったのに。


私は彼の事や気持ちを、汲み取ってあげてなかった


気付けば自分しか見えなくなってた


『違う…私ね、康平ともっと一緒に居たいよ』


俯いてしまった彼の頭を包むように、


私はそっと優しく抱き締めた


「A…」


『ごめんね、康平がそんな風に思ってる


なんて、私全く知ろうともしなかった…』


『このまま私の話聞いてくれる？』


彼は私にされるがまま、ただ黙って頷いた






『私、康平は届かない存在だと思ってたから、


そんな好きな人と付き合えるなんて夢みたいで。


何ヶ月か経った今もまだ慣れなくて…』


ゆっくりと自分の心の内を少しずつ打ち明けていく


『恋愛経験も多くない私には はじめてが多くて、


だから、ついていくのに精一杯というか


でも別に康平が嫌いとかそういうことしたくない


とかではなく、その』


「…本当に」


「俺のこと、嫌いじゃない？」


弱々しく私の腰に手を回し上目遣いで見つめる彼


まるで大きい犬のようで、可愛らしく愛おしかった


『うん…好き、だよ』


「俺も…好きだ」


『これからは、私もたくさん言うから。


だからどうか、呆れないでそばに居てほしい…』


康平がしてくれた分を、負けないくらい私も


貴方に返すから。

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