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慶一郎Side
最後の患者さんのリハビリは押すし、帰ろうと思ったらドクターから呼び止められるしで、可愛い弟妹達が待つ家に帰るのは、7時前になってしまった。
「ただいまー！」
いつもならおかえりと返してくれる声も、今日はなぜか違う。
かすかに聞こえてくるのは、帰ってきちゃった、と俺が帰ってきたことを嘆くようなAの声だ。
兄ちゃん、泣いてもいいかな？
中に入る心の準備ができずに、リビングのドアの前で立ち尽くしていると、ドアが開いてシゲが顔を見せた。
「何してんの？早く入れば？」
「いや、Aの俺が帰ってきたことを嘆く声が聞こえたから、中に入る心の準備ができなくて。
俺、なんかAにしたっけ…？」
答えると、シゲは頭に？を浮かべ、首を傾げた。
これはチャンス。可愛いシゲちゃんを撮らなきゃ！
スマホを取り出し構えたところで、シゲから頭に軽いチョップを喰らった。
「俺のこと撮る前に、LINE開いてよ。その様子じゃ、見てないでしょ。」
そういえば、早く家に帰らなきゃと思ってLINEを開いてなかった。
LINEにはシゲから、帰ったらAのことを診てほしいという連絡が来ていた。
「ごめんごめん、分かったよ。それでA、俺が帰ってきたことを嘆いてたんだ。
ってことで、さっきのポーズして。」
「は？」
こんなガチトーンの「は？」久々に聞いたよ。
「さっき、シゲの写真撮る前にLINE開けって言ったでしょ？
LINE開いたから、写真撮っていいよね？」
「言葉のアヤってもんがあるでしょ、もう！
そんなことしてないで、ご飯の前にA診てやって！」
怒らなくてもいいじゃん。まぁ、怒ってるシゲも可愛いからいいんだけどね。
プリプリしてリビングに入ったシゲに続いて俺も中に入る。
俺の顔を見たAは、石にされたかのように固まった。
「A、ただいま。そんなに怖がらないでよ。優しくするからさ。」
「ウソだ、絶対痛いもん！」
まあ、硬直してるんだし多少の痛みはね。
でも、ほぐしたり伸ばししなきゃ余計にしんどくなるから。
「できるだけ痛くないように、優しくするから。」
「結局痛いんじゃん！」
「A、ワガママばっか言わない。」
シゲは、甘えるようにイヤイヤするAにぴしゃりとそう言い残し、夕飯作りに戻った。
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作者名：かもみーる | 作成日時：2020年1月24日 21時
