21話 日常 ページ22
曲を決めたり、依頼の準備を進めたりしていると、いつの間にか、空が赤く染まっていた。
『やばっ！もうこんな時間！集中し過ぎた…夕食の準備しないと…』
急いで自室の机の上を片付けて、リビングに向かう。
…あれ？どうして二人が並んでキッチンに…。
『…二人とも何してるの？』
「うわっ！びっくりした。気配を消して話しかけるなよ。驚くだろうが…。」
「夕食の準備をしているんですよ、Aさん。」
『えっ、二人で？」
「ええ。」
「…いつも、Aに任せてばっかだからな。」
『…ふふ、ありがとう。』
「…おう。」
「さ、Aさんは座ってゆっくりしていてください。」
『うん、ありがとう。じゃあそうさせてもらうね？』
そう言っていつもの席に座って、二人の姿を目に焼き付ける。…あぁ、幸せだなぁ。
最近、そう思うことが多くなった。依頼をしばらくストップしていたのも、その一つかもしれない。日常がとても心地良い。…これから、非日常がまた始まるというのに。…まぁ、私にとっては日常か。
今のこの「日常」をしっかりと覚えておこう。忘れないように。見失わないように。
「…い、おい、A！」
『っ！…え、何？英雄さん。』
「だから、夕食ができたって言ってるだろ。どうかしたのか？そんなにぼぅっとするほどのことを考えてたのか？」
『…ううん、何でもないよ？』
「…なら、いいけど。」
「配膳までちゃんとしてください。」
そう言って、ウラルが料理を運んでくる。
『そうだよ、英雄さん。配膳までが夕食の準備だからね？』
「ああ、悪い」
そう言って英雄さんはキッチンへと向かう。
「….何かありましたか？」
『…なんでそう思うの？』
「表情や声のトーンがいつもと違っていたからですかね。」
…ウラルには、嘘がつけなさそうだな。気をつけないと。
『…うん。ちょっと考え事してた。』
「何を考えていたかは、教えてくれないんですね。」
『…うん。教える気はないよ。』
「…いつか、教えてくださいね。」
『いつか、ね。』
ごめんね、ウラル。話してしまったら、私は多分揺らいでしまうから。
「…なぁ、何話してんだよ？」
『ん〜？英雄さんって、仕事はできるけど、プライベートが本当にダメダメだよねって話してた。』
「ええ、尋問を受けた時の印象からも、察してはいましたが…ここまでとは思っていませんでした。」
『ねぇ〜？最早仕事が恋人って感じ。早くいい人見つけなよ。』
22話 才能（※既存の曲名を出しております。）→←20話 驚愕
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作者名：きなこもち | 作成日時：2023年12月31日 15時
