赤葦京治の寝起きは悪くない【赤葦京治】 (ページ5)

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6月。

インターハイ県予選第二試合、シード権を有する梟谷はこれが初試合。高校最初の公式戦で、1年の俺は観客席から2，3年生の雄姿に胸を高鳴らる反面、試合に出たくてうずうずしていた。

メガホンを握る手が緊張で湿り、それを拭きとろうとした時、周囲からわっと小さな歓声が上がり、それに驚きメガホンが手から離れる。

見渡すと客席脇の一段一段にチア部の部員が等間隔で並んで下りてきていた。その煌びやかな光景に一般の観客の中にカメラを向ける人も少なくなく、彼女らはそれに笑顔で答える。あの子かわいい、いや自分はあの子が、などというひそひそ声も耳に入る。

ふと自分の横を見ると、見覚えのある少女が立っていた。今度は周囲と同じようにユニフォームを纏っている。

それにしても短いな。

太ももの半分以上を隠さない短いスカート、へそは見せるものと言わんばかりに布面積の少ないノースリーブス。その子は自分の定位置を確認すると、ふと足元に落ちた俺のメガホンに気づいて拾い上げる。バチン。と感電したような衝撃と共にその子と目が合う。

「これあなたのですか」

想像したよりも少し低く、抑揚のない声。整った目鼻のパーツはピクリとも動かない。

「……」
「…？」

覚えてる限りでは、声を出すことも忘れて彼女の目を見つめていたと思う。今思えば俺は相当不振だった。

ドドンと会場に大太鼓が響き、踊り始めなければならない彼女の少し焦燥した様子に俺はハッとし、慌ててメガホンを受け取る。

「あ、ありがとうございます。…すみません。」
「いえ」

メガホンを受け取った俺に目の色をほっとさせ、ほんのわずかに口角を上げてこういった。

「勝ちましょう」

はい、と言葉を返す隙もなく彼女はすぐにコートに向き直り、周囲と同じように寸分の狂いもなく、手を動かし始めた。

否、俺は言葉を返せなかった。声が出なかった。理由はわからない。でも隣で踊る彼女が気になって仕方がない。

一目惚れとは一線を画す、多分あの時、俺は彼女に憧れた。

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