赤葦京治の寝起きは悪くない【赤葦京治】 (ページ29)

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2人並んでローテーブルの前に座る。

藍沢が見たいといった映画はアメリカンヒーローの繰り広げるアクションものだった。

ヒーローは彼自身を犠牲に世界を救い、映画のラストでは、世界に平和が戻った裏でヒーローの死が悼まれた。

「なんかいまいちだったね」

喜びも感動もしきれない終わり方にモヤモヤしながら横を見ると、静かに涙を流す藍沢がいた。

「え」

『……見ないで』

ずず、と鼻をすすって顔を俺のいる逆方向にそらして隠す。

俺の涙腺は簡単なことでは緩まないが、お世辞にも泣ける映画ではなかった。

ところが、藍沢の涙は彼女がぬぐってもぬぐっても止まらない。

とりあえずその辺にあったティッシュをひたすら渡し続けて彼女が泣き止むのを待った。

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「大丈夫？」

『…うん』

「そんなに泣けた？」

『うん、なんか知らないけど…。ヒーローの死を想って悲しむ人もさ、10年後にはもう彼の事忘れちゃってるのかなって思うと悲しくて』

また潤みだした目元を抑えてうつむく彼女に、失礼とは重々承知ながらも顔が緩んでしまう。

『…わらうなあ』

「優しいじゃん」

『うるさい…』

瞳を濡らしたままこちらを睨んでくる。

目じりに残る涙の跡に指を伸ばすと、彼女はびくついて一瞬目を瞑る。

驚かせないようにそっと頬に触れると、意外にも彼女は俺に触れられることを許した。

『？なんかついてた？』

ゲーン。

多分これが漫画だったらそんな効果音が付いたことだろう。

男ひとりを部屋に入れ、頬とは言えど触られることに何の警戒もない。

自分の事は棚に上げ「これがもし他の男だったらいったいどうなっていたか」と腹を立てると同時に、

自分は彼女の恋愛対象外である事を突き付けられ、普段はかわいいと思える彼女の鈍さに少しだけイラつく。

「藍沢さ、」

大きくため息をつきながら、彼女の頬に寄せていた指をするりと顎まで移動させる。

『…なに』

俺のただならぬ雰囲気を感じたのか、今更警戒しだす彼女に、

「もう遅いよ」と苦笑して、口づけた。

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