372話 ページ35
操「蒼紫様は?」
口を開けば蒼紫様、蒼紫様と言う操に弥彦は素っ気ない返事をする。
弥「知らね。まだ帰ってねぇ」
操「そんなー。またスレ違い…でも変ね。いつもなら昼時には必ず帰ってきてるはず。なのに今日に限って…」
弥彦は操を縁側に残し、道場で日課の素振りをする。
弥「999、1000!!今日の修行日課終わり。さて、これから何しよう」
弥彦はここ最近慌ただしく、時間が空くことがなかったと思うと、頭に闘いの始まる前に燕に言った言葉が過り、体は自然と向かうべき場所を目指した。
弥「やっぱ…まず、やるコトと言えば、アレだな…」
その頃、落人群では剣心の周りにチチュンと呼ばれている二羽の小鳥が逆刃刀に止まったり、辺りを飛んだりを繰り返していると、何かに気が付き、そちらの方へと飛んでいく。
「オウ」
「オイボレ!」
オ「ホッホッホ、ただいま。留守中、元気だったかな、皆ノ衆。隈君」
オイボレが鍋を囲んでいた面々から隈と呼ばれている五十そこらの男に声をかける。
隈「ん、ああ…見ての通り。相変わらず、ピクリともしねェ。まあ、今までここに来た輩とはかなり毛色の違う奴だから、人の善いあんたが気にかけるのはわかるけどよォ…けど、それでもやっぱり、詰まるところはここまで。堕ちてきた人間、これ以上、あんたが気にかけても、何にもならねェんじゃねェのか」
渋い顔をする隈にオイボレが何を思ったのか、定かではない。一方、そんな事以上にオイボレの土産をせがむ輩がオイボレを囲う。
「オイボレ、そんなコトより、早くみやげ!」
「みやげ!」
オ「ホッホッホ。慌てずとも、ちゃんとあるぞな。今週の嬉し恥しビックリドッキリおみやげは…じゃーん」
オイボレの手には小さな小瓶があった。何なのかがわからない為に、周囲は困惑した顔をする。
「な…なんだぁ?」
オ「なんだとはなんだ。これでも有り金全部はたいて、手に入れたんだぞい」
オイボレが小瓶の蓋を開けると、ふんわりと香りが広がる。慣れない匂いに周囲は鼻をつまむ。
「うわ、臭ェ!!」
「なんだ、香水かよ。ハラのタシにもなりゃしねェ!」
オ「バッカモン、臭いとはなんだ。そもそも香水の始まりは、体臭をごまかすためのもの。わしらにはぴったりじゃないかえ」
剣「…………てくれ。その香り…遠ざけてくれ…」
ようやく剣心が口を開いたかと思うと、その言葉は酷く拒絶した声であった。オイボレはそれを聞くと、気を悪くはせず、優しい笑顔を見せる。
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作者名：つっさん | 作成日時：2021年2月24日 16時
