366話 ページ29
『別に。一人分も二人分もさして変わらないから、ついでに作っただけ。それに、あんまり食べてないだろ?食わないと治るものも治らないよ』
Aは苦笑しながら、バルコニーを出ていく。「人誅」という卑劣な手段で剣心に復讐しようとした縁に対して、我ながら甘いなと思いながらも、やはり、どこか弟に重なってしまっているとAは密かに思っていた。
一方の縁はかつて、姉・巴が食事を作っているところを思い出し、Aの料理を口にする。
縁「………」
懐かしいとは違うけれど、どこか安心する味であった。
道場に着いた二人は薫が遠目で合図を送っていることに気がつく。
弥「あれ、オイボレ!」
オ「にぃ」
オイボレは半壊した道場の入り口に座っていた。薫には面識のない人物であり、警戒しているようであった。
弥「なんでお前が
オ「週一回の物乞い行脚のついでじゃ。なんかおくれ」
弥彦が親しげに話している様子から大丈夫であろうと判断し、弥彦達の方へ行き、声をかける。
薫「…弥彦、知り合いなの?」
弥「この前、剣心のところに行ったときにな」
薫「夕飯…食べていきます?」
オ「有り難や、有り難や」
手を合わせるオイボレに慣れない様子の薫。弥彦は日課の素振りをしようとすると、オイボレが声をかける。
オ「ホウ。さっそく剣の稽古か?」
弥「ああ。毎日、続けねェと強くはなれねェからな」
オ「うむ!武士はまず、強くなくてはいかんからのう」
その発言に弥彦は引っかかりを覚え、それは薫も同じであった。
薫「オイボレ、さんは元は武士…士族の方だったの?」
薫の言葉でオイボレからいつもの笑顔が消える。
オ「まあな…けど、儂は弱かったから、幕末の動乱で娘と息子を失くして、今はこの通り…」
操「ふうん…あんたも色々背負っているんだ…いいわ!今日は私のこと、自分の娘だと思って頂戴」
オ「それはちと無理!なんせ娘はあんたの百倍は美人じゃったからのう」
ケタケタと笑いながら言うオイボレに操は怒りながら苦無でオイボレの頭を刺すが、オイボレはいつもとは違う、真剣な雰囲気で言葉を続ける。
オ「まあ、しかし、長い人生、何かを失うコトは常につきまとうもの。
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作者名：つっさん | 作成日時：2021年2月24日 16時
