364話 ページ27
呉「それを聞いて一安心だね。では私は暫く、専用の下屋敷に滞在するから。何か急用の時は電信で報せてくれよ」
立ち去ろうとする呉に縁が引き止める。
縁「待った。用ならさっそく一つある」
呉「ミスター外印のコトかい。それなら船の配下に既に命じてあるから心配無用だよ。可哀想だね。あの人、30人の武道の達人にボコられて、海にポイ」
縁「流石だな。お前のそういうところには感服するぜ」
呉「これだけが取り柄だからね。では失礼…」
その場を後にする呉は玄関の方へ向かいながら口を開く。
呉「用が済めば、未練も興味もない…か。結構。だが、くれてやるという態度は思い上がりも甚だしいんじゃないか」
それをこっそりと聞いていたAは面倒臭い奴だなと思いながらも、縁のいるバルコニーへ向かう。そのバルコニーにいる縁は晴れ晴れとした顔をしていた。もうじき終わり、抜刀斎もとい、剣心がこのまま失意のどん底でじわりじわりと衰え野垂れ死んでいくのをゆっくりと、じっくりと見届けるだけ。もうじき終わるよ、姉さん。そう思いながら目を閉じるとそれまで笑っていた姉・巴から笑顔がなくなり、ゆっくりと目を閉じる様子に、縁は目を見開く。
縁「うああああああああ」
その叫び声にAは気づき、バルコニーに出ると、縁が半狂乱になっていた。
縁「何故…何故そんな
縁はバルコニーの入り口に立つAに目を向け、激しい怒りをも向ける。
縁「そうか…コイツが生きているから…
縁の言葉にAは背筋が凍る。その瞬間、縁に首を掴まれ、Aが抵抗しようとするも呼吸がままならず、縁はお構いなしに力を強める。
『……か…は………』
縁「やはり貴様を殺さねば、人誅は完成しない!死ね死ね死ね死…」
ドクンと大きく脈打ち、縁の手からAは開放される。
縁「が……………」
『う…』
呼吸が出来ていなかったAと様子が一変した縁はそれぞれ床に倒れ込み、縁は嘔吐してしまう。その時、Aは呼吸を整えながらも、自分を殺さなかった理由に確信を持つ。幼い時に見た巴の惨殺の場面によって、髪の毛が真白になる程の衝撃が心の傷として強く残り、若い女性に対して巴の面影を見出してしまう様になり、頭では殺そうとそても、体はそれを拒絶してしまう。殺さなかったのではなく、殺せなかった。
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作者名：つっさん | 作成日時：2021年2月24日 16時
