357話 ページ20
『…待て待て、どうなってる…?いつの間にか、
そう口に出したところで自体が変わる訳ではないことはよくわかっている。まず、ガーゼに睡眠薬の一種と思われる薬品が染み込ませてあり、それで意識が遠退いたのは理解していた。しかし、理解出来なかったのは、何故あの時、あの場で殺さなかったのかという事であった。
『…あれ?脇差が、無い…?!』
流石に無いと困ると思う反面、拉致されている側であるから、下手に動けないとも思う。
『…ここは、開いてるのか……』
状況が読み込めない以上、とりあえず、部屋にいては事が進まないのは明白であり、場所の把握をするため、手持ちの武器などは持たずに部屋を出る。屋敷は異様な雰囲気であった。人の気配が全く無く、真夜中のように静かであった。Aには心配事がいくつもあった。薫、左之助、恵、弥彦の事は勿論、連載途中の小説の事もあったが、一番は剣心であった。巴を失い、大切な人を失うことに強い恐怖感を持っている事を知っていたため、どういう形で事が進んでいても、剣心が一番立ち直りが遅いと思っていた。Aは廊下の突き当たりにある玄関と思われる扉を開けると、声の出ない驚きを覚える。
縁「逃げようとしても無駄だ」
満身創痍の縁の声にAは再び驚くが、攻撃する気は起きない。
縁「ここは組織が物資を海路で東京へ運ぶ時使う、東京湾上の中継基地の孤島。一番近い隣島まででも、距離およそ二十キロ。鮫も大量に生息している。加えて、目の前の入り江以外は全て垂直直下の断崖絶壁。入り江に入る週一回の連絡船を断てば、何人たりとも出入り不能の、いわば天然の要塞。しばらく、ここで大人しくしていろ。そうすれば、いずれ、ちゃんと、東京に送り返してやる」
『…それは、剣心に、何かあったのか…?』
縁「……まあそうだな。そう長くはない」
縁はニヤリと口角を上げる。
『もう一つ答えろ。縁は、あの時、何で殺さなかった?敵意も殺意も十分持ち合わせていたはずだ』
縁「………お前に、話す必要などないコトだ」
そう言って縁は屋敷の方へ戻ってしまう。Aにはわからない事だらけになってしまった。情けでない事だけは確かだが、笑みの意味と今の状況が全くと言っていい程に掴めなくなってしまった。屋敷に戻った縁は外印に話しかけられる。
外「「話す必要などない」か。確かに、余り他人にベラベラ喋るコトではないな」
縁「…何か」
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作者名：つっさん | 作成日時：2021年2月24日 16時
